1960年代〜70年代のフランスのポップ・スター、“クロクロ”ことクロード・フランソワの伝記映画『最後のマイ・ウェイ』を見た。とにかく、クロード役のジェレミー・レニエが、本人ソックリでびっくり! そして、ダンサンブルでエキサイティング! きっとこの映画を見たら、誰もが自分とクロクロとの出会いを語りたくなるはず。これが初めての出会いなら、きっと魅了されるはず。そんなわけで筆者も語らせてもらいます。
・【週末シネマ】病的な女好き、傲慢で神経質!「マイ・ウェイ」作曲者の桁外れな人生
あれは子どもの頃、エレクトーンの教材にあった「マイ・ウェイ」を弾いていたら、親が「これはシナトラの名曲だ」と言いながら何故か日本語歌詞の冒頭を口ずさんでいたので、“オジサンの演歌”と認知。時は流れて1996年、『ペダル・ドゥース』というゲイクラブで踊り狂うビジネスマンを描いた最高に面白い映画を見て、そのレトロなディスコミュージックが気に入ってサントラを購入。そのなかで一番好きだったのがエキゾチックなクロクロの「Alexandrie Alexandra」だったのだが、これがあの「マイ・ウェイ」を作った人だと知ってびっくり! オリジナルを聞いてさらに驚いたのは、英語詞はオヤジが我が人生を振り返る壮大な内容なのに、本家の方はやるせない恋心をちまちまと歌っていたということ。こんなにも違うなんて……。でも、私はオヤジじゃないので、本家のほうが断然好き。これまで“点”として記憶されていたこれらのことが、この伝記映画を見て“線”でつながり、なんだか嬉しくって仕方なかったのだ。
本作はフランスで大ヒットしたということだが、本人に顔が似ているうえに演技力もお墨付きの人気俳優をキャスティングできたことがこの映画にとって最大の幸運だったに違いない。ジェレミー・レニエは10代半ばの美少年だった頃に主演した『イゴールの約束』(96年)で注目され、『クリミナル・ラヴァーズ』(99年)の繊細な少年役でさらに絶賛され、『ある子供』(05年)でヨーロッパ映画賞の主演男優賞にノミネートされるなど、華々しいキャリアの持ち主。派手なイケメンではない分、主演でも脇役でもなじむオールマイティなところも魅力。そんな彼が、約5ヵ月間にわたる徹底した役作りをして、完璧に“クロクロ化”して撮影に臨んだのが本作であり、それはもう凄いパフォーマンスを見せつけてくれるのだ。歌声だけは、クロクロの甲高い声のイメージを損なわないために本人の歌声に差し替えたということだが、それでも圧巻の熱演だった。
映画の作りもよくて、エジプトで音楽に親しみながら育った幼少期、母親への甘え、歌手になることを許すことなく亡くなった父との確執、スターになるための苦労、アイドル同士の恋、妻を顧みない傲慢さとスターであり続けることへの執着、新しいセンスへの嗅覚、アーティストとしての光と影、そして彼の歌「COMME D’HABITUDE」を「マイ・ウェイ」として世界に広めた敬愛するフランク・シナトラへの想い……。それらがさりげなく、でもしっかりと、スターにふさわしい光あふれる映像で149分の中におさめられている。ひとつ難をいえば、女好きというわりにはその感情があまり伝わってこなかったけれど、これはもしかしたらクロクロ本人がそういうクールな人だったのかもしれない。
この作品はジェレミー・レニエの代表作のひとつになるに違いない。でも、あまりに似すぎていて、ジェレミーであることを忘れてしまい、クロクロの過去映像を見ている気分になる。そこまで個を消す主演俳優っていうのも、なんだかすごいなあ。(文:秋山恵子/ライター)
『最後のマイ・ウェイ』は7月20日よりBunkamura ル・シネマほかにて全国順次公開中。
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