ニコラス・ホルト
ゾンビ版「ロミオ&ジュリエット」として話題の『ウォーム・ボディーズ』は、ゾンビ青年の独白から始まるのだけれど、“僕はゾンビで、空港で暮らしていて、しゃべれないけど他のゾンビとはこうして意思疎通をはかっているんだ”といった自己紹介を淡々と語るところからして面白くて、すっかり引き込まれてしまった。
人類の多くが滅びた近未来で、ゾンビのR(アール)君は人間の武装集団を見つけて襲いかかるが、ショットガンを構えるブロンド美女のジュリーに一目ぼれ。やがてRとジュリーは種族違いの恋(?)に身を焦がすが、世界はゾンビVSニンゲンVSガイコツ(ゾンビより強敵)の壮絶な戦いに!
「ロミオ&ジュリエット」のバルコニーシーンも再現し、ジュリーがRに人間の美青年風の化粧を施すシーンでは「オー・プリティ・ウーマン」をかけるというサービスぶり。脳ミソを食らうシーンまで出てくるゾンビ映画だっていうのに、恋愛の古典をベースに80年代の青春映画のような甘酸っぱさをプラスして見事にまとめあげた愛すべき作品だ。
監督のジョナサン・レヴィンは天才に違いないのだけれど、キュートなゾンビ映画に仕上がったのは主演のニコラス・ホルトの魅力に負うところが大きい。ブルーの瞳とちょっと尖らせたような口元が愛らしい彼は、11年前のヒット作『アバウト・ア・ボーイ』(02年)でヒュー・グラント演じる独身ダメ男と友情を結ぶ少年を演じていたかわいいあの子である。
当時12歳。それから7、8年たって、『シングルマン』(10年)でゲイの教授の前に現れる、まるで天使のような青年役を演じたときには、「あのぽっちゃりした子がこんなに麗しい青年に成長して!」と多くの人が感動したものだ。監督のトム・フォードは世界的なデザイナーでありゲイなので、男優たちをそれはそれは美しく撮ったが、ニコラスに白いモヘアのセーターに白いパンツを着用させたのは、そして裸で夜の海に飛び込ませて無邪気な笑い声をあげさせたのは、やはり彼を天使に見せたかったからに違いない。それから、彼を気に入っているブライアン・シンガー監督のファミリー映画『ジャックと天空の巨人』での主演も果たした。残念ながらこの映画では、ぺったりした髪型が似合っていないのだが……。
しかし、本作のゾンビ役で再びそのイケメンぶりをアピール! 白塗りホラー顔でも隠せない美貌は、『シザーハンズ』(90年)で人造人間エドワードを演じたジョニー・デップを彷彿させる。異形の者とブロンド美女との恋も同じ。ジョニーはそれ以前に『クライ・ベイビー』(90年)などでハンサムぶりは映画ファンに知られていたけれど、パッとしなかった。それが白塗り傷だらけの顔でスターに、というあたり、ニコラスの今後を示唆しているようでもある。
また、色白のかわいい子役から美青年へ、という喜ばしい成長ぶりには、筆者の贔屓俳優イーサン・ホークが重なる。イーサンは14歳の頃、『エクスプロラーズ』(85年)で故リバー・フェニックスと共に映画デビューしているが、その可愛らしさったら半端じゃない! それが7、8年して『生きてこそ』(93年)や『リアリティ・バイツ』(94年)でかっこよく主演を果たし、現在もコンスタントに活躍している。今まさに旬でこれからもっとスターになるであろうニコラスは、演技力もお墨付き。今回のようにユニークな作品を大事にしながら、ジョニーやイーサンのような息の長い俳優になってほしいと願う。(文:秋山恵子/ライター)
『ウォーム・ボディーズ』は9月21日よりシネクイントほかにて全国公開中。
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