『キッチン・ストーリー』(03)などを手がけてきたベント・ハーメル監督。母国ノルウェーのみならず世界的に高い評価を得ていて、チャールズ・ブコウスキーの原作を映画化した『酔いどれ詩人になるまえに』といった英語作品も監督した彼が、再びノルウェーを舞台に完成させたのが、2月21日から公開される『ホルテンさんのはじめての冒険』だ。生真面目な鉄道運転士ホルテンさんが、定年退職の日に人生初の遅刻をしたことから、次々と不思議な出来事や人物、災難に出くわしていく姿を、優しくユーモラスな視点で描き出す。人生の滑稽さをなぞらえたような味わい深いこの作品について、ハーメル監督に話を聞いた。
まるで鉄道のダイヤのように規則正しい毎日を送ってきたホルテンさん。ニコリともしない彼が、67歳にして次々と不思議な出来事や災難に遭遇する姿がユーモアをかもしだし、クスクス笑いがこみ上げてくる。
「よくコメディを作ったのですか、と言われるのですが、私自身にはそのつもりはありませんでした。でも、ユーモアがあると思われ、笑ってもらえることはとても嬉しいですね」
映画のもうひとつの主人公とも言えるのが、絶景の中を走る、世界的にも人気の“ベルゲン急行”だが、主人公の職業が運転士であることにはさほど意味はないという。
「変わりばえのしない日々を送っている真面目な老人。社交的でもなかった人が定年退職したらどうなるだろう──そんな発想から生まれた作品です。我々は引退した人をひとつの型に押し込んでしまいがちですが、人生は人それぞれだと思うのです。今回はたまたま運転士という仕事ですが、他の仕事でもよかったのです」
どことなく、北欧映画の雄アキ・カウリスマキ監督にも通じる空気感を感じる作品でもある。ただし、カウリスマキ監督の作品を好きだという監督だが、特に意識はしていなかったそうで、「もしかしたら、スカンジナビア特有のメランコリックなユーモアがあるのかもしれませんね」と笑っていた。
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