米国アカデミー賞で作品賞こそ逃したものの、外国語映画賞をはじめ4部門に輝いた『グリーン・ディスティニー』(00年)。日本でも興収40億円突破と、当時の日本で公開されたアジア映画の興収記録を塗り替えた『HERO』(02年)。この2作品をはじめ、『LOVERS』(04年)や『ラスト、コーション』(07年)など、世界に通じるアジア映画を次々と生み出してきたプロデューサーのビル・コン。彼がプロデュースした新作が、現在公開中の『ラスト・ブラッド』だ。
アジアのトッププロデューサーとして、今や世界をも見据える彼に、『ラスト・ブラッド』のこと、そして、ヒット作を連発する秘密を直撃した。
世界を見据えた映画作り
プロダクションI.G.が製作した『BLOOD THE LAST VAMPIRE』は、2000年に劇場公開されたアニメ映画だ。この作品を最初の試写で見たというビル・コンは、日本にヴァンパイアキラーがいて、彼女が米国の空軍基地のど真ん中で活躍するというストーリーにほれ込み、キャラクターや雰囲気に魅了されたという。「これほどうまく作られたアニメはこれまでになかった」。その驚きこそが、実写映画化した原点だ。
主人公のサヤ役を演じているのは、日本でも人気のあるチョン・ジヒョン。その敵であるオニゲン役には小雪が扮している。
「チョン・ジヒョンのことは『猟奇的な彼女』の頃から知っていました。彼女は単にキレイな女優ではなく、話してみると、心の奥に意志の強さや情熱を秘めている。もっと伸びるだろうと、ずっと思っていたんです。それで今回、彼女ならパーフェクトなアクションヒロインを演じられるに違いないと思って声をかけたところ、すでにこの作品を見ていて、すごく気に入っていると言ってくれました。
小雪さんに関しては、日本の女優さんの中で、もっとも美しい方。いつか一緒に仕事をしたいと思っていたんです。彼女が演じたオニゲンは、何百年もの間、日本で一番美しい女性として生き続けている。まさにピッタリだと思いました。実際に彼女が脚本を読んで快諾してくれたときは、本当に嬉しかったですね」
アジアでNO.1のプロデューサー。そう思っていると話すと、「褒めていただき、ありがとうございます。私自身、まだまだ下っ端だと思っているんです」と謙虚な答えが返ってきた。だが、『グリーン・ディスティニー』『HERO』『LOVERS』と立て続けにヒット作を生み出した実力は、まさにNO.1の称号がふさわしい。そのビル・コンが、映画作りに際して気をつけていることが2つあるという。
「1つは題材です。私自身が思い入れを感じられるかどうかが、とても重要。というのも、自分が手がける作品は、まずは自分が愛せなければいけないと思うからです。それはプロジェクト、脚本、キャスト、スタッフなど、すべてに及びます。
もう1つは、世界中の人々にわかってもらえる作品であることです。ヒットする作品は、ストーリー、キャラクター、ドラマなどが、世界に通用しなければなりません。『グリーン・ディスティニー』『HERO』『LOVERS』のいずれも、中国やアジアのみならず、世界を見据えて作ったつもりです。そのために必要なのが、わかりやすさ。極端に言えば、脚本段階から、物語がラテンアメリカやアフリカの方にもわかってもらえるかを考えて作っているのです」
3つのマーケット規模を想定
チャン・イーモウにアン・リーと、アジアが誇る監督と何度も組んでいるビル・コン。彼が考えるプロデューサーと監督の理想的な関係は「ベストフレンドであり、かつ、ベストパートナーでもあること」だ。
「ベストフレンドとは、困難に直面したときに互いにサポートしあえる関係です。一方のベストパートナーは、1つの作品に対して、同じ方向を見て、同じビジョンで作れる関係になります。私にとって両監督は、まさにベストフレンドでベストパートナーなのです。2人は天才で、彼らと一緒に仕事をできたことは私にとって誇りでもあります。そして、いつも一緒に映画を作りたいと思っている相手でもあるのです」
ここで、1番聞きたかったことを質問してみた。それは、アン・リーやチャン・イーモウのそれまでの作品と、『グリーン・ディスティニー』や『HERO』では、作風が異なること。2人は決してアクション大作を撮るタイプではない。そんなチャレンジングな企画を、なぜ彼がプロデュースすることになったのか?
「残念ながら2作品とも、私が監督に『これを作ってください』とオファーしたわけではないんです。『グリーン・ディスティニー』で言うと、アン・リーが原作に思い入れがあり、どうしても作りたいと言ってきたんです。同様に『HERO』も、チャン・イーモウが、あのような物語で『羅生門』のような映画を作りたいという意向を持っていた。私が題材を選び、2人にオファーしたなら、もっと良かったのかも知れませんが(笑)」
そんなビル・コンはプロデューサーとして、世界、アジア、ローカルという3つのターゲットを使い分けた映画作りをしているという。
「ローカルとは、日本のみといったように、特定の国をターゲットとした映画です。必然的に予算は少なくなりますが、その国の嗜好に合わせて映画を作っていきます。
アジアがターゲットの場合、日本、中国、香港、台湾、韓国など、もう少し広いマーケットを視野に入れます。数年前に私が日本のワーナー・ブラザースと一緒に、チョン・ジヒョン主演で作った『僕の彼女を紹介します』などが、その代表作ですね。
そして、世界がターゲットの映画ですが、『ラスト・ブラッド』がまさにこれにあたります。根本にあるのが、世界の人々が好きになれるか、理解できるかを考えながら進めること。『ラスト・ブラッド』はアニメ版を見た時に、これならアメリカの観客も気に入るに違いないと直感しましたし、実写版も見たがるだろうと考えました。だから、それなりの予算を投下し、世界をターゲットに作っているわけです」
最後に日本の俳優や監督で、今後、組んでみたい人がいるか尋ねてみた。返ってきた答えは「たくさんいるが、今、話が最終段階を迎えつつあるため、具体名を挙げることができない」というもの。
「ただ1つ言えることは、これから18か月の間に、おそらく1人以上の日本人監督と組むだろうということですね。ぜひ、期待してもらえればと思っています」
(テキスト:安部偲)
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