【週末シネマ】父性という本能を追求──是枝裕和監督×福山雅治主演『そして父になる』

『そして父になる』
『そして父になる』

見ていて懐かしさがこみ上げて来る。素の自分の言葉で演じる子どもたちと、それをしっかり受けとめて芝居で返していく大人たち。カンヌ国際映画祭で柳楽優弥が最優秀男優賞に輝いた『誰も知らない』(04年)を思い出す。あれから9年経った今年5月、同じカンヌ国際映画祭で是枝裕和監督の最新作『そして父になる』は審査員賞を受賞した。

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小学校入学を控えた最愛の1人息子が、出生時に病院で取り違えられた他人の子どもだった。一方は東京で一流企業に勤めるエリートの家庭、もう一方は地方都市で電器店を営む子だくさんの庶民的な家庭だ。両家は病院側の仲介で親同士がまず面会するが、病院側は低姿勢を貫きつつも事務的に、血縁を重視した交換を提案。その態度に困惑や怒りを示しながらも、両家は日を改めて家族だけで交流する機会を持ち、実子か育ての子か、という選択と向き合っていく。

負け知らずの人生を歩み、家族の前でも隙を見せないエリート・サラリーマンを演じるのは福山雅治。容姿端麗で生活感のないスターの佇まいが、主人公・野々宮良多の誰に対しても常によそよそしい冷たさ、無意識の傲慢さ、自身の抱える問題を把握できずにいる悲しさを表現するのに功を奏している。決して福山自身がそういう人だということではなく、役の中に福山が浸り込んで一体化し、芝居であることを忘れさせるという意味だ。これは妻のみどりを演じる尾野真千子にも、がさつだが愛情いっぱいの家庭を築く斎木雄大・ゆかり夫妻を演じるリリー・フランキーと真木よう子、息子たちを演じる二宮慶多、黄升炫にもあてはまる。

『誰も知らない』以降の是枝作品では、即興も心得たプロの俳優が的確に演じる作品が続いていた気がする。前作『奇跡』(11年)も、主人公は子どもたちだが、まえだまえだという芸達者の兄弟がきちんと演じ、 “精緻に作られた自然体”の完成度を楽しむ感があった。今回も、樹木希林や故・夏八木勲、國村隼ら名優が脇を固めて、ドラマを形成する。その中で、2つの家族を演じる俳優たちが、自由に動く子役たちを中心に動いていく。大人たちは子どもたちの投げる球を受けて投げ返す。子役に食われるどころか、プロの俳優が子役を食う瞬間さえある。そうした積み重ねから1つの流れが形成されていく。言葉に頼り過ぎず、表情や仕草、あるいは彼らの目に映る風景という形でスクリーン上に描く演出は見事だ。

血縁をとるか、6年間過ごしてきた親子としての時間をとるか。家族という単位ではそれが最大の問題だが、本作はそれ以上に“父親である”ということと初めて向き合う男の物語だ。自戒も含めた自己投影を福山に、こうありたいと思う理想をリリーに、息子として見続けた父親像を夏八木に託す、と簡単に決めつけるものではないだろうが、ドラマティックな設定でありながらも、父親という概念、父性という本能を作者自身がひたすら追究する、ごく私的な作品ともとれる。10月には、やはり出生時の子どもの取り違えに端を発するフランス映画『もうひとりの息子』が公開される。女性監督目線で同じテーマをどう扱うか、見比べてみてはいかがだろう。(文:冨永由紀/映画ライター)

『そして父になる』は19月28日より公開中。

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