『パリ13区』ジャック・オディアール監督インタビュー
ミレニアル世代の男女4人の孤独や不安、愛やセックスにまつわる人間模様を描き、2021年カンヌ国際映画祭コンペティション部門正式出品、ジャック・オディアール監督×セリーヌ・シアマ脚本の話題作『パリ13区』が4月22日より公開中だ。日本公開を記念し、オディアール監督がインタビューに応じ、影響を受けた作品や映画に登場するキャラクター、撮影秘話について語った。
オディアール監督は、本作品の原点をエリック・ロメール監督『モード家の一夜』だと明かす。
「いつか愛について語る映画を撮りたい、より厳密に言えば、現代において人はいつどのようにして愛について語るのだろうか、という思いを、知らず知らずのうちに抱いていたのです。『モード家の一夜』には、2人の男性と1人の女性が登場しますが、特に1人の男性と女性が夜通し話をします。自分たち自身のことはもちろん、あらゆることについて語り合うのです。惹かれ合う兆しが示されますし、互いの腕に身を委ねて愛し合うべきなのに、結局はそうならない。なぜか? それは、全てが言葉で語られ、誘惑やエロチシズム、愛といったものは、言葉を通じてのみ表されるからです。それを追いかけるのは余計というものでしょう。逆の状況が提示された場合、現代ではどのように事が運ぶのでしょう。出会い系アプリや『初デートでベッドイン』の時代には、実際何が起こるのでしょう。こうした状況において、情緒的な会話はありえるのでしょうか。答えはもちろんイエスです。疑いようもありません。ですが、どんな瞬間にそれが見られるのか。どんな言葉や手順なのか。それが『パリ13区』という物語の主題の1つなのです」
オディアール監督は続けて、物語の中で苦悩しながらも前に進んでいくエミリー、カミーユ、ノラ、アンバー・スウィートの4人の登場人物の立場について説明する。
「彼らはもうティーンエイジャーではありません。主役の4人は人生経験をいくらか積んだ若者で、互いに出会い、愛し合うことになります。彼らは皆、社会的な存在で、世捨て人ではありません。3人は 30代。すでに住居や職を探す苦労や、仕事上の難局を経験しており、恋愛はもちろん、性的にも身を固められずにいる。彼らは自立したばかりにもかかわらず、ライフスタイルを変えてしまいます。登場人物たちは皆、幻滅を味わうのです。ですがそれは、いいことです。彼らは自分自身について見誤っています。さまざまな経験を通して、自分が本当は何者で、何を望み、何を心から愛するのかに目を向けることになるのです」
本作品は、コロナ禍に製作されたが、これまでの作品とは異なる特別な方法で進められたという。
「撮影が始まる3日前には、パリの劇場で脚本を最初から最後まで通しで確認しました。役者全員が 顔を合わせ、役柄を通してお互いを見て、うまくいった点とそうでない点を把握し、自信を付ける機会にもなりました。さらに、リハーサルにかなりの時間をかけたことで、撮影が非常に速く進み、新型コロナウイルスにさらされる機会を減らすこともできたのです」
最後にオディアール監督は、日本の観客に向けてアピールした。
「今回はパリの新しい側面を映すためにモノクロで撮影しました。エイドリアン・トミネの物語に着想を得て、セリーヌ・シアマとレア・ミシウス、2人の才能豊かな女性脚本家と共に作り上げた作品です。ぜひ楽しんでご覧ください。私もこの撮影には非常に楽しんで臨むことができました。ぜひ劇場で観ていただけたら嬉しいです」
70歳の鬼才ジャック・オディアールが洗練されたモノクロで魅せる!
本作品は、今年70歳を迎える鬼才ジャック・オディアール監督が、『燃ゆる女の肖像』で一躍世界のトップ監督となった現在43歳のセリーヌ・シアマと共同で脚本を手がけた“新しいパリ”の愛の物語。
舞台となるパリ13区は、高層住宅が連なり多文化で活気に満ちた現代のパリを象徴するエリア。コールセンターで働くエミリーと高校教師のカミーユ、32歳で大学に復学したノラ、そしてポルノ女優のアンバー・スウィートという若者たちが織りなす不器用で愛おしい恋愛模様が描かれる。
原作は、今最注目の北米のグラフィック・ノベリスト、エイドリアン・トミネの3つの短編。『モード家の一夜』や『マンハッタン』にオマージュを捧げながら、洗練されたモノクロームで映し出す、誰も見たことのなかったパリがここにある。
『パリ13区』は、4月22日より公開中。
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