『清須会議』
織田信長亡き後の後継者を決めるため、家臣の柴田勝家と羽柴秀吉らが尾張国清須城で会議をもった5日間を描いた『清須会議』。三谷幸喜が初めて手がけた時代劇映画で、ドラマ、映画、舞台など、過去の三谷作品で活躍してきた役所広司、大泉洋を中心に総勢26名が織りなす群像劇だ。
勝家役の役所、秀吉役の大泉に加えて、勝家の盟友・丹羽長秀を小日向文世、急きょ会議に参加することになった池田恒興を佐藤浩市が演じるほか、鈴木京香、妻夫木聡、伊勢谷友介に浅野忠信、中谷美紀……キャストそれぞれが主演で映画を撮れるスターばかり。通りすがり程度の役をNHK大河ドラマの主演俳優が演じていたりする豪華さだ。
1582年、本能寺の変で織田信長とその長男・信忠が倒れ、筆頭家老の勝家は信長の三男・信孝を、秀吉は次男の信雄をそれぞれ後継者として推挙し、どちらがふさわしいか評定する会議を開こうとする。そこでは秀吉によって討たれた明智光秀の領地再配分も議題になっていた。協議するのは本来、織田四天王である勝家、秀吉、丹羽長秀、そして滝川一益だが、関東に出陣していた一益は城にたどり着けずにいる。その間、信長への忠誠を誓う勝家と強烈な上昇志向の秀吉は1人でも多くを自らの味方につけようと、頭脳戦を繰り広げる。2人は信長の妹・お市をめぐる“恋敵”でもあった。
いきなり死んでしまう織田信長を演じる篠井英介が、おなじみの信長の肖像画にそっくり。親族を演じる役者たちも特徴ある鼻筋を強調した特殊メイクをほどこし、そのほかの登場人物も肖像画や文献などに残された特徴を取り込んで、しっかり作り込んでいる。お市様の鈴木京香、信忠の妻・松姫を演じる剛力彩芽は眉を落とし、お歯黒を見せながら艶然と微笑む表情は往年の黒沢・溝口の作品を想起させる。
一方、台詞やリアクションはどちらかというと現代的だ。16世紀にそれはないだろう、と思う場面はところどころあるが、その型破りが面白い。折りにふれて、少年時代から歴史好きだったと公言してきた三谷にとって、まず小説として書き上げた後に映画化に取り組んだ本作は、いわば“構想40年以上”。細部を知り尽くしたうえだからこそ成し得た作劇だ。
とぼけたやりとりの向こう側に、生死を賭けた駆け引きがちゃんと透けて見える。実直と狡猾の対決には勝負を超えたペーソスが漂い、コミカルにして重厚。そしてメイン2人に気をとられていると、思わぬところから伏兵が現れてくる。合戦も刃を交える場面もほとんどないのにスリリング。誤解を恐れずに言うと、かつてお正月の風物詩だった「新春かくし芸大会」を見ているよう。準備万端整え、気合いを入れて全力で遊ぶ。面白いことをしようという意気込みがしっかりと機能していて心地よい。(文:冨永由紀/映画ライター)
『清須会議』は11月9日より全国公開中。
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