愛を与える妖精、オードリー・ヘプバーンの真の姿を誠実に伝えるドキュメンタリーに感銘

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オードリー・ヘプバーン
『オードリー ・ヘプバーン』
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近親者の協力を得て作られたからこその説得力

【週末シネマ】没後29年経つ今も世代を超えて愛され続けているスター、オードリー・ヘプバーンについて、初めて遺族の同意を得て作られたドキュメンタリーが公開される。

『ローマの休日』や『ティファニーで朝食を』、『マイ・フェア・レディ』といった名作の数々に主演し、2022年の今も魅力が色褪せない不滅のスターであるヘプバーンが遺したインタビューの映像や音声、さらに息子や孫、親しかった友人や縁ある人々が語る言葉から、美しく生きたスターの知られざる真の姿が明かされていく。

父の裏切り、ナチス占領下でのトラウマ、奪われたバレエの夢、幾度の離婚…息子が描く知られざる人生

暴露するようにではなく、だが本音の部分にかなり踏み込んだ内容は、本当に彼女をよく知る人々の協力を得たからこその説得力がある。

26歳の監督が綿密なリサーチのもと完成

1929年に誕生したヘプバーンが幼くして父と離別し、オランダ貴族だった母の故郷で育った少女時代は第二次世界大戦の最中だった。両親の離婚で受けたトラウマは母との関係にも影を落としたという。最晩年の1992年に行った「ライフ」誌のインタビューに応えて、率直にその時の心情を語る本人の肉声をはじめ、貴重な素材や証言が次々と登場する。

優雅で快活で完ぺきな美の象徴だったヘプバーンは、実はとてもシャイな性格で常に不安に苛まれ、その一方で惜しみなく愛を与え、愛されることも切望していた。そんな実像を誠実に伝えるのは、26歳のイギリス人監督、ヘレナ・コーンだ。リサーチに3年を費やし、2020年コロナ禍のロックダウン期間中にドキュメンタリーを完成させた。本作には、祖母が亡くなった翌年に生まれた孫のエマ・ファーラーが登場し、「オードリーが隠し続けた秘密は、彼女が悲しんでいたことです」と語る。ヘプバーンの生きた時代を知らない世代の視点で作られていることもポイントだ。

『オードリー・ヘプバーン』

(C)Sean Hepburn Ferrer

2度の離婚、自分を捨てた父との再会、絶望は消えることなく

『ローマの休日』で大ブレイクし、アカデミー主演女優賞にも輝いたヘプバーンは2度結婚、離婚をしている。一男をもうけた俳優のメル・ファーラーとは14年間、イタリアの精神科医アンドレア・ドッティとも一男をもうけたが、結婚11年で離婚している。先出の孫、エマの父であるショーン・ヘプバーン・ファーラーは、彼の母親は夫に父親的なものを求めていたのではないかと語っている。

ヘプバーンは成功を収めた後、疎遠だった父親を探し出したが、その再会は苦いものだったという。幼い頃に父に捨てられた絶望は消えることがなく、愛情に対して不安を覚えたり過剰反応したり、愛情を与えたいという思いも人一倍強くなる。ヘプバーンは愛についてもポジティブな名言をいくつも遺しているが、その言葉が生まれてきた背景は実につらく厳しいものだった。

第二次世界大戦末期の1944年、オランダは大飢饉が発生し、ヘプバーンも栄養失調から貧血や喘息などに苦しんだが、その折にユニセフの前身団体の救援物資に助けられたという。この体験がのちに、ユニセフ親善大使として活動するきっかけになった。

ユニセフ親善大使として愛を惜しみなく与えた

劇映画出演は1989年のスティーヴン・スピルバーグ監督作『オールウェイズ』が最後となったが、ほぼ同時期から打ち込んだのが、自らの名声を活かした人道支援活動だ。ユニセフ親善大使として、貧困や飢饉に苦しむ世界各地の人々の元を訪ねた様子も本作に登場する。栄養不良や病気で痩せ細った子どもたちの立場を深く理解し、優しい笑顔で寄り添う。そして、戦争や紛争のしわ寄せが子どもたちに及ぶ悲劇への怒りと支援を訴えて発信し続けた晩年は、ヘプバーン自身が子どもの頃から抱え続けた愛にまつわる心の傷を癒す過程のようにも見える。

分け隔てなく惜しみない愛を与えること、これこそが彼女の天命だったのかもしれない。紆余曲折を経た最後に美しい輪となって閉じた、見事な生涯に感銘を受ける。(文:冨永由紀/映画ライター)

『オードリー ・ヘプバーン』は2022年5月6日より公開。

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