エズラ・ミラー
新たな青春映画の名作が生まれた。「ライ麦畑でつかまえて」の再来との声もダテじゃない、1991年を舞台に描く同名ベストセラーの映画化『ウォールフラワー』だ。主人公は高校1年生のチャーリー。周囲の輪に入れぬ、いわゆる壁の花“ウォールフラワー”としてスクールカーストの最下層にいる。
そんなチャーリーの青春期を掬いあげた本作。日本では本国アメリカほど知られた原作ではないが、旬なキャストのそろい踏みで、早くから話題になっている。だが、今回取り上げるのは、チャーリーを繊細に切なく演じあげたローガン・ラーマン(『パーシー・ジャクソンとオリンポスの神々』シリーズ)でも、チャーリーが一目ぼれする、スクールカーストのピラミッドからは独立し特別な輝きを放つ上級生のサムを、これでもか!!というほどに眩しく演じてみせるエマ・ワトソン(『ハリー・ポッター』シリーズ)でもない。
彼らもベストなキャスティングだが、もうひとり、本作には重要にして、新鮮なキャストティングがされている。サムと同学年で義理の兄妹パトリックを演じるエズラ・ミラーだ。名前を聞いてもピンとこない人も、『少年は残酷な弓を射る』の“彼”(ケヴィン)だと聞けば、ハッ!とするのではないだろうか。そう、あのまさに鋭い矢のように見る者を釘づけにした美青年である。あの作品で、彼の瞳に心を射抜かれた女性は多いだろう(内容はそんなことは言っていられない重いものなのだけれど)。
だが同時に、彼のルックスはケヴィンのようなミステリアスで冷酷さを内包した役にはピッタリでも、ほかのキャラクターを演じるのは難しいのでは?とも感じさせた。しかしそんな心配は無用だった。『ウォールフラワー』で、エズラは彼独特のスペシャルな空気を残しながらも、エキセントリックで明るく、仲間への情に厚い非常に魅力的なゲイの青年パトリックとしてイキイキと登場してみせる。
友だちゼロだったチャーリーに、初めて隣の席を勧め、“はみだし者”の輪の中へと誘い、心を開かせる寛容さを持ち合わせたパトリック。敵意の塊のように映ったケヴィンとはまるで別人(美しさは相変わらず)。劇中、仲間と共に行う、カルト的人気を誇る『ロッキー・ホラー・ショー』上映でのパフォーマンスでは、あの女装のフランクン・フルター博士のコスプレ姿まで見せてくれるゾ!
そんなエズラは1992年生まれのまだ21歳。映画デビューは08年で、映画俳優としてようやく6年が経とうというところ。とはいえ、吃音症を治すために始めたオペラの訓練によって、メトロポリタン歌劇場などの舞台に立った経験を持ち、現在も自らのバンドでドラムスとボーカルを担当している。これはミュージカル映画での彼も見てみたい! また、パトリックはゲイだが、エズラも自らのことをセクシャル・マイノリティを指す「クィア」であると公言している。さらに、海外では無害であるとする考えがあることも耳にする大麻についてエズラも、無害な薬物であり、感性を高めるとすら発言している。どうも彼の素顔はケヴィンより、パトリック寄りのようだ。
いずれにせよ、まだまだ彼の力は未知数。だが、伸びしろが多い役者だと期待させる絶対的な何かがあるのは間違いない。こちらも焦らず彼の出演作をひとつひとつ見守ろう。そしてまずは、純粋に珠玉の青春映画『ウォールフラワー』の世界に浸ってほしい。(文:望月ふみ/ライター)
『ウォールフラワー』は11月22日よりTOHOシネマズ シャンテほかにて全国順次公開中。
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