『47RONIN』
ハリウッド版忠臣蔵として製作発表時に注目を集め、完成が待たれていた『47RONIN』が、世界に先駆けて日本公開された。予告編や場面写真などから、もう正統派の時代劇ではなくファンタジーであることは明々白々で、ふたを開けたら、やはりその通り。キアヌ・リーヴスが妖獣を倒して始まり、妖怪を倒して終わる。その間に、赤穂藩藩主・浅野内匠頭が高家の吉良上野介に刃傷におよび、切腹。残された藩士たちが吉良邸に討入るおなじみの物語が収まっている。
だが、浅野が吉良に斬りつける理由も、討ち入り劇も原典とはまったく違う。浅野は壮年で、吉良はずっと若い。リーヴスが演じる主人公・カイは架空の人物だ。イギリス人の父と日本人の母を持つ“異端児”だが、流れ着いた赤穂藩で浅野の温情を受け、これもまた架空の人物である浅野家の姫・ミカと心を通わせている。
赤穂藩の取り潰し後、四十七士たちが結集する過程などは、ヨーロッパの中世にありそうな経緯だ。月代(さかやき)のある髷姿の人物は1人もおらず、男たちの普段の装いは比較的ノーマルな着物だが、甲冑のデザインはどこの国のものともつかない。ミカの着ているものも無国籍風味、侍女たちは織田信長みたいな茶筅髷。このあたりに目くじらを立てる気にはならない。オペラやシェイクスピアの舞台でも、奇抜な衣裳や装置の新演出は珍しくないことだ。ただ、切腹する父は白装束だが、見守る娘はピンクのドレス姿で涙を流しているようなところは、ちょっとセンスないんじゃないか、と重箱の隅をつつきたくなる。
ハリウッドで以前から活躍している真田広之、浅野忠信、菊地凛子の安定感は申し分ない。映画オリジナル・キャラで吉良の側室にして妖術使いのミヅキを演じる菊地の暴れっぷりは見事。ハリウッド大作が彼女に最も相応しいサイズなのだと思わせる。これだけ自由に脚色を加えた物語において、監督の意図を汲んだうえで終始「侍」の佇まいを崩さなかった真田にも感服を禁じ得ない。そして、日本人キャストを立て、前に出過ぎない主人公を演じたリーヴスの慎み深さも好ましい。
台詞が全編英語なのは賢明な選択だ。登場人物たちは日本語として話しているのだから、固有名詞以外に日本語の単語を使わない判断は正しい。荒唐無稽の連続だが、そこで描かれる侍の魂のありようは意外にも正統的だ。だが、そのために「忠臣蔵」は必要だっただろうか? 別にこだわる必要もないのに、「四十七士の物語」と何度も畳みかけるから、違和感を抱くことになってしまう。なぜ、この逸話にそこまでこだわったのか、逆に謎に思えてくる。
カイは劇中で「Half-breed」と呼ばれ、日本語字幕では「鬼子」と表記される。超訳だなあと思ったのだが、いよいよ決起という段になって血判状にカイが署名するくだりで、なるほど、と唸った。戸田奈津子氏らしい字幕制作のセンスを感じる。カイという字をこう書くのか。これはほかのどれでも味わえない、日本語字幕版だけの現象になっている。(文:冨永由紀/映画ライター)
『47RONIN』は12月6日より全国公開中。
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