今年も残すところあとわずか。年末年始の休みこそ、じっくり映画を楽しんでもらい、大きな画面と音響に浸ってほしい。そんな願いを込めて、寒い季節でも映画館に足を運ぶ価値のある作品10本をセレクトした。
『麦子さんと』
堀北真希と松田龍平が兄妹を演じる『麦子さんと』は、長い間出奔していた母親の突然の帰還と死を通して、成長していくフリーターの麦子を描く。母親という存在を、大人になった自分がどうとらえるか。変えようのない血のつながりという大前提のもと、母ではない部分、1人の人間として母を見つめるという行為がもたらす娘の心の変化を堀北が丁寧に演じる。身勝手だが愛情深い母を演じる余貴美子、遺骨を持って母の郷里を訪ねた麦子を迎える人々とのやりとりも素晴らしい。
『永遠の0』
肉親の知られざる過去にふれるもう1本は『永遠の0』。百田尚樹のベストセラー小説を『ALWAYS 三丁目の夕日』シリーズの山崎貴監督が岡田准一主演で映画化した。挫折を経験し、人生に迷いが生じた青年が、一度も会ったことのない祖父――太平洋戦争中に特攻隊の一員として戦死した優秀なパイロット――の存在を知り、その実像に迫っていく。大切な人のために生きるということ、国のために命を捧げるということ。2つに引き裂かれながら、特攻に志願した男の真意に胸を打たれる感動作。
『武士の献立』
『武士の献立』は、刀ではなく包丁を手に藩に仕える加賀藩の料理方“包丁侍”の家に江戸から嫁いだ女性と、跡継ぎ息子なのに料理が苦手な年下の夫の物語。上戸彩扮する姉さん女房と高良健吾が演じる頼りない夫がぶつかり合いながら、互いをかけがえのない存在へと育てていく姿は、言うなれば“そして夫婦になる”と言った感じ。結婚とは、妻と夫だけでも成立するものだが、近親者も含めて家族になるということでもある。フォーマットは時代劇だが、現代的な感覚の演出で、21世紀を生きる我々も十分に共感できる仕上がりだ。
『キューティー&ボクサー』
親の決めた相手との結婚ではなく、恋に落ちたことから始まった芸術家夫婦の波瀾万丈の40年間をまとめたのは、2013年サンダンス映画祭ドキュメンタリー部門監督賞に輝いた『キューティー&ボクサー』。ニューヨーク在住の現代芸術家、篠原有司男と妻・乃り子の日常をアメリカ人のザッカリー・ハインザーリング監督が4年間追い続けた。芸術にすべてを賭ける夫と、自分の芸術よりも夫を優先し、全力でサポートする妻。ただ耐え忍ぶのではなく、有司男の芸術を介しての自己実現、さらには自らの体験を投影するキャラクターを創出し、夫婦の二人展にこぎつける乃り子こそが本作の主役かも。その彼女が惚れ込んだ有司男の81歳という年齢を感じさせないパワーももちろんすごい。恋人であり戦友であり、夫婦。1月13日まで渋谷で開催中の二人展も合わせてチェックすることをおすすめする。
(文:冨永由紀/映画ライター)
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