【2014年の期待作3】山田洋次最新作から『ディープ・スロート』女優の人間ドラマまで
2014年、前半は2月に発表されるアカデミー賞の有力候補作など、見応えある作品が目白押し。その中から選りすぐった10本を前後編に分けてご紹介しよう。
【2014年の期待作】前半はこちら!/アカデミー賞有力候補が目白押し
邦画は作品の規模こそ、ハリウッドのように大がかりなものにはならないが、“愛する”という人間にとっての根源的な感情に迫る秀作が2本登場する。
まずは、中島京子の直木賞受賞作を巨匠・山田洋次が松たか子を主演に迎えて映画化した『小さいおうち』(1月25日公開)。昭和初期、東京郊外にある赤い屋根の可愛らしい家を舞台に、東北から奉公に来たタキの目を通して、女主人・時子の秘められた恋を描く。タキの遺したノートを通して、昭和と平成を行き来する形で徐々にひも解かれる物語は、時代に翻弄される女性たちの物語でもある。情熱を必死に抑えながらも、まさに身を焦がすように生きる時子を演じる松たか子が色っぽく、なんとも美しい。
ハンサムで仕事も有能で女性に優しいモテ男、ニシノユキヒコと彼をめぐる女性たちを描く『ニシノユキヒコの恋と冒険』(2月8日公開)は、川上弘美の原作を『人のセックスを笑うな』の井口奈己監督が映画化。常に魅力的な女性たちに囲まれ、彼女たちに愛されながら、なぜか最後は1人残されてしまう。まるで天使のようにふわふわとした優しさと軽やかさを持つ主人公を竹野内豊が好演。尾野真千子、成海璃子、木村文乃に麻生久美子などなど、女優たちの顔ぶれも魅力的。男も女も切ない。さりげなく流れていく感覚が心地よく、美しい恋愛映画だ。
『大統領の執事の涙』(2月15日公開)はホワイトハウスの執事として34年間、トルーマンからレーガンまで歴代の大統領8人に仕えたユージン・アレンの実話がベース。南部の奴隷の子として生まれ、ホワイトハウスの執事となった黒人男性の目を通してアメリカの激動の近代史を描き、公民権運動の最中で反政府活動に身を投じる息子との確執など、家族の物語も並行して展開する。監督はアカデミー賞受賞作『プレシャス』のリー・ダニエルズ。主演は『ラストキング・オブ・スコットランド』のフォレスト・ウィテカー。オプラ・ウィンフリーやレニー・クラヴィッツといった異色のキャスト、歴代大統領を演じるロビン・ウィリアムズやジョン・キューザックら、多彩なキャストも見どころの1つだ。
昨年のカンヌ国際映画祭でブルース・ダーンが最優秀男優賞に輝いた『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』(2月28日公開)は、インチキくさい通知文を信じて当選金100万ドルを受け取るためにモンタナ州からネブラスカ州まで旅する老人と、詐欺と知りながらも頑固な父に同行する息子のロードムービー。4州にわたる旅を通して、息子はそれまで知らずにいた両親の過去にふれ、疎遠だった父子の関係も変化していく。『アバウト・シュミット』、『サイドウェイ』、『ファミリー・ツリー』といった作品で、人と人のつながりにこだわり続けてきたアレクサンダー・ペイン監督の集大成ともいえる一作。
1972年製作のポルノ映画『ディープ・スロート』に主演し、一躍時の人となった女優、リンダ・ラヴレースの数奇な半生を描く『ラヴレース』(3月1日公開)は、『レ・ミゼラブル』のコゼット役で清楚な魅力を振りまいたアマンダ・セイフライドの熱演に注目の一作。厳格な家庭に育った若い女性がバー経営者の男性と恋に落ち、すぐに結婚。借金まみれの夫に請われて出演したポルノ映画が空前の大ヒットを記録して、彼女は「セックス革命のシンボル」に祭り上げられる。愛らしい笑顔と素直な性格ゆえに思いも寄らぬ人生を歩むことになった女性がたどった波瀾万丈の半生を体当たりで演じている。(文:冨永由紀/映画ライター)
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