【2013年映画ベスト10/前編】心身共に鷲掴みにされる『ゼロ・グラビティ』ほか

『ゼロ・グラビティ』
(C) 2013 WARNER BROS.ENTERTAINMENT INC.AND LAGENDARY PICTURES
『ゼロ・グラビティ』
(C) 2013 WARNER BROS.ENTERTAINMENT INC.AND LAGENDARY PICTURES

アトラクション映画にして哲学映画『ゼロ・グラビティ』

2013年も押しつまった12月になって、真打ちのように登場した『ゼロ・グラビティ』は、無重力を体感させるアトラクション映画にして、死生観を考察する哲学映画。宇宙空間に投げ出され、地球への生還を試みる宇宙飛行士2人の物語だ。見終わった後にふらつきそうなほど、リアリティのある宇宙の描き方に圧倒される。それは本作のために開発された数々の技術のなせる技であり、サンドラ・ブロックとジョージー・クルーニーという人気も才能も超一流のスターの存在によるものであり、何より、『天国の口、終わりの楽園』や『トゥモロー・ワールド』といった傑作を手がけたアルフォンソ・キュアロン監督と撮影のエマニュエル・ルベツキのコンビのなせる技。上映時間91分とは思えない濃密さで、心身共に鷲掴みにされる。

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名演とはこういうこと!『世界にひとつのプレイブック』

デイヴィッド・O・ラッセル監督の『世界にひとつのプレイブック』は、心の病という深刻にならざるを得ない題材との距離の取り方が絶妙。ときに突き放し、ときにどっぷりと浸り寄り添い、はた迷惑で滑稽で、でも本人は苦しくて仕方ないという事態をリアルに描く。ブラッドリー・クーパーとオスカー主演女優賞に輝いたジェニファー・ローレンスはもちろん、父親役のロバート・デ・ニーロが本当に素晴らしい。名演とはこういうことなのだ、と感嘆する。

巨匠のテクニックに酔いしれる『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』

1作ごとにテーマやアプローチをがらりと変えるアン・リーが、アカデミー賞監督賞に輝いた『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』は物語を語るテクニックに引き込まれる。インドからカナダへ渡る途中、乗っていた貨物船が海難事故に遭い、ただ1人生き残った16歳の少年と船に同乗していた動物たちの漂流記。主人公・パイの述懐にまんまと乗せられ、導かれ、ベールがかかったようにぼんやりとしていたものの全容が見えたときのカタルシスに酔いしれた。

老介護の現実と愛の凄まじさを描く『愛、アムール』

昨年のカンヌ国際映画祭の最高賞パルム・ドールと今年のアカデミー賞外国語映画賞を受賞した『愛、アムール』は、ジャン・ルイ・トランティニャンとエマニュエル・リヴァという80歳を越えたフランスの名優を起用し、老老介護の現実と愛の凄まじさを描く。ミヒャエル・ハネケ監督の冷徹な演出、主演2人の渾身の演技が生むこのうえない緊迫感で、身じろぐこともできない2時間余だ。

痛快ウエスタン娯楽作『ジャンゴ、繋がれざる者』

クエンティン・タランティーノ監督がアカデミー賞オリジナル脚本賞を受賞した『ジャンゴ、繋がれざる者』は、奴隷制度というアメリカの歴史の暗部に切り込みつつ、良識ある社会派ではなく痛快ウエスタンの娯楽作。主人公・ジャンゴと旅をする賞金稼ぎDr.シュルツを演じたクリストフ・ヴァルツ、敵役で奴隷商人役のレオナルド・ディカプリオ、と助演俳優の大活躍が印象的。特に、飄々とした佇まいにヨーロッパ人の洗練を漂わせ、アメリカの野蛮さと対決していくシュルツは、今年の公開作のなかで最もクールな人物の1人。ヴァルツは『イングロリアス・バスターズ』に続いてアカデミー賞助演男優賞を受賞した。(文:冨永由紀/映画ライター)

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