【2013年映画ベスト10/後編】キャメロン・ディアスが最強悪女を熱演『悪の法則』ほか
キャストは本物の囚人!『塀の中のジュリアス・シーザー』
ローマ郊外の刑務所に服役する囚人たちの演劇実習、一般客を招いての公演までの行程を描く『塀の中のジュリアス・シーザー』は、『父 パードレ・パドローネ』などで知られるイタリアの名匠、タヴィアーニ兄弟の最新作。重犯罪を犯して長期服役中の男たちがシェイクスピアの「ジュリアス・シーザー」を演じる。実際に刑務所内で撮影を敢行し、実録のように見えるけれど、完全なるフィクション。だが、演じているのは実際の囚人だ。芝居心があり、味のある顔の男たちは妙に魅力的。嘘を映すドキュメンタリーとでも言うべき異色作だ。
演劇的な演出で描く『アンナ・カレーニナ』
ジョー・ライト監督とキーラ・ナイトレイという『プライドと偏見』、『つぐない』のコンビが三たび組んだ『アンナ・カレーニナ』はロシアの文豪、トルストイの壮大な風景を、劇場という狭い空間に押し込める演劇的な演出で描いてみせる。それでいて、監督の得意とする奥行きのある映像表現も健在。舞台が果てしない大地のように広がるかと思うと、壁も天井もある小ささを感じさせる。形態が変容するような不思議な感覚に襲われる。恋に生きるヒロインの情熱とは対照的な、夫の抑圧された悲哀をジュード・ロウが好演している。
映画の原点、モノクロ・無声映画風の『熱波』
3D作品が台頭するなか、スタンダード・サイズの画面でモノクロ、無声映画風の演出という映画の原点のスタイルを選択した『熱波』はポルトガルのミゲル・ゴメス監督の作品。死期の迫った老女がかつて愛した男との再会を望み、その行方を探し当てた隣家の女性に男が話し始める半世紀前の恋物語は魔法のように美しい。
ドラマティックなSF作品『クラウド アトラス』
『マトリックス』シリーズのラナ&アンディ・ウォシャウスキーと『ラン・ローラ・ラン』のトム・ティクヴァの共同監督作『クラウド アトラス』は、個性派の監督同士が組んで互いの持ち味を増幅、さらに広がりを持たせた稀有な作品。19世紀から文明が崩壊した後の24世紀まで500年余の時の流れに点在する6つのエピソードをつないで、1つの大きな物語を生み出す。1つのキャラクターが別の時代のキャラクターに転生していくのだが、それは時代を前後もするし、男にも女にもなる。トム・ハンクス、ハル・ベリーらが複数のキャラクターを演じる、多様でドラマティックなSF作品。
キャメロン・ディアスの悪女役が迫力!『悪の法則』
リドリー・スコット監督が『ノーカントリー』のコーマック・マッカーシーを脚本に迎えて撮った『悪の法則』。監督の前作『プロメテウス』にも出演したマイケル・ファスベンダーが主人公の弁護士を演じ、恋人役にペネロペ・クルス、友人の実業家にハビエル・バルデム、その愛人にキャメロン・ディアス、麻薬ビジネスのブローカーにブラッド・ピット、と超豪華キャストを揃えて、軽い気持ちで闇の世界に足を踏み入れた男の見る地獄を描く。救いのない悪の描写に賛否が分かれるところだが、欲と悪と人間の三つ巴の物語は寓話性に満ち、道徳的ですらある。キャメロン・ディアスが最強の悪女を演じ、これまでにない迫力を見せている。(文:冨永由紀/映画ライター)
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