【あの人は今】『アウトサイダー』で大ブレイク、80年代のトップアイドルも早50歳
マット・ディロン
昨年11月に自動車事故で急逝したポール・ウォーカーが製作・出演した『スティーラーズ』。アメリカ南部の質屋を舞台に、店を訪れる男たちが直面するとんでもない事態を、暴力とブラックな笑いで覆い尽くしてオムニバス形式で描く。たとえばこんな話。新婚旅行中に金欠になり質屋に駆け込むと、数年前に行方不明になった妻に贈った指輪があった。新妻を置き去りにし、捜索の旅に出る中年男を演じているのはマット・ディロンだ。
2月に50歳になる。もう50歳? まだ50歳? 彼について抱く印象は、その両方だ。青春アイドルとしてスタートしてから36年、年々渋みを増す風貌で独特の存在感を放つ彼のキャリアを振り返ってみよう。
80年代前半のアイドルといえば、この人をおいてほかにない。10代のマットは甘さのある整った顔立ちと不良っぽさで、フランシス・フォード・コッポラ監督の『アウトサイダー』(83年)をはじめ、青春映画で活躍する無敵のスターだった。
郊外の町で大人たちへの反抗に暴走する10代を描いた1978年の『レベルポイント』でデビューした当時は14歳。幼さの残る表情や声で精一杯粋がる様子は微笑ましいが、当時の女の子たちにとっては王子様のように魅力的だったはずだ。演じる役は、サマー・キャンプで女の子同士の恋愛ゲームに巻き込まれる『リトル・ダーリング』(80年)など、10代の女の子をターゲットにしたものばかり。潤んだ茶色の瞳にきれいな白い肌、赤い唇。いろんな映画で無闇にシャツを脱がされ、他愛ないストーリーでも、ヒロインが霞むほどのマットの美しさで間を持たせる作品も少なくなかった。
だが、いい芝居を見せるのは実は脇に回ったとき。デビュー作然り、『アウトサイダー』や『マイ・ボディガード』(80年)など、無軌道だったり、たちの悪いいじめっ子だったり、何かが欠落している少年を演じると俄然輝きが増す。スカウトされて映画界入りしたが、天性の役者だったということだろう。10代の若さで照れもせず、同世代の少女の夢を体現していたことも今にして思えばその証左だ。10代の活躍の集大成的な作品が『ランブルフィッシュ』(83年)。コッポラ監督のモノクロ映像作品で、ミッキー・ローク扮する兄に憧れる不良少年の成長物語で主演をつとめ、青春スターとしてのピークを極めた。
20代前半は大人の役どころへ挑戦するも低迷が続いたが、89年の主演作『ドラッグストア・カウボーイ』がその後の進む道を決定づけた。ガス・ヴァン・サント監督が大注目されるきっかけとなったこの作品で、麻薬欲しさに薬局や病院を襲う中毒者グループのリーダーを演じたマットはインディペンデント・スピリット・アワードの主演男優賞を受賞。コッポラ作品で共演したトム・クルーズやニコラス・ケイジがハリウッド大作で次々主演を張るなか、インディーズ系の作品への出演を優先していくようになる。
30代を迎えると、ファレリー兄弟のお下劣コメディ作『メリーに首ったけ』(98年)のいかがわしさ満点の探偵役、『ワイルドシングス』(98年)の悪だくみをめぐらす高校教師役などで怪演を連発。二枚目のルックスとのギャップを見せつけて、新境地を開拓していった。2004年には『クラッシュ』で悪徳警官の良心を演じてアカデミー賞助演男優賞候補になり、2度目のインディペンデント・スピリット・アワード主演男優賞を受賞している。02年には『シティ・オブ・ゴースト』で監督デビューも果たした。
『スティーラーズ』では厚みの増した体躯、電話帳を見るときに老眼鏡をかける姿に年月を感じさせるが、何よりも驚くのは、きれいな顔はそのままなのに、びっくりするほどオーラがないこと。構わないでいるとこうなるのかと思う。同窓会で昔憧れた同級生と衝撃の再会を果たしたような複雑な気分だが、不思議とみじめさは感じない。若い頃から邪魔にはならなかったはずの美貌だが、それだけを頼りにもしなかった。そのままの自分で、進みたい道を極めていった。タフガイや汚い大人を演じながら、ナイーブな幼さも失っていない。だからこそ、『スティーラーズ』で演じたような役がはまる。歳を重ねて、ますます面白くなっていく。我が道を行く彼が20年後、どんな爺になっているのか。いまから楽しみでならない。(文:冨永由紀/映画ライター)
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