【週末シネマ】家族の良さと面倒くささを、ときに可笑しくしみじみと描き出す
『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』
第86回アカデミー賞で作品賞、主演男優賞など主要6部門にノミネートされた『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』は、モンタナからネブラスカまで4州をまたぐ約1,500キロを旅する年老いた父と中年の息子の物語。
・【週末シネマ】粗も目立つが、生きるために戦う男たちの圧倒的パワーでねじ伏せる
100万ドルの賞金が当たったと知らせる手紙を握りしめ、高齢ゆえに免許もとっくに返上した足元のおぼつかない老人は、たった1人で歩いてでも賞金を受け取りに行こうとする。妻も2人の息子も「これはインチキ」と説得を試みるが、老人は頑として聞き入れず出奔を繰り返す。見かねた次男は仕事を休み、助手席に父を乗せて、モンタナ州ビリングスからネブラスカ州リンカーンを目指す。
無口で大酒飲みの父と心優しき常識人の息子は旅の途中、父の生まれ故郷の町に立ち寄る。いまもそこには父の兄が家族と暮らしていた。人々の昔話から、本人の口から語られることのなかった父の過去が少しずつ明らかになっていく。話す人々それぞれの優しさ、無遠慮なあけすけさ、愛憎が一体となった複雑な感情が浮かび上がる。1人の老人について語らせることで、語り手という別の人間を描いてく面白さがある。
モノクロでシネマスコープの画面に広がる世界にも引き込まれる。建物1つなく荒涼とした平野のなかのまっすぐな道路、殺風景な町並み、美人でもかっこよくもない普通の人々。冴えない日常の風景がなんともリアルで、100万ドルの懸賞金というニュースに小さな町全体が浮き足立つ様子も真に迫っている。
白髪を振り乱し、記憶も混濁した痛ましい状態ながら、100万ドルを受け取るという鉄の意志で行動する父・ウディを演じるのはブルース・ダーン。『マーニー』(64年)や『ヒッチコックのファミリー・プロット』(76年)といったヒッチコック晩年の作品や『ブラック・サンデー』(77年)、ハル・アシュビー監督の名作『帰郷』(78年)などで活躍し、近年はシャーリーズ・セロン主演の『モンスター』(03年)やタランティーノの『ジャンゴ 繋がれざる者』(12年)に出演している名優は、多くを胸の奥底に秘めた寡黙で頑固な男を見事に演じている。昨年5月には、76歳にして本作でカンヌ国際映画祭最優秀男優賞を受賞。アカデミー賞主演男優賞にもノミネートされている。
次男・デイヴィッド役には日本未公開のコメディ映画やアニメ『くもりときどきミートボール』シリーズで声優をつとめたウィル・フォーテが抜擢され、優しく誠実だが、うだつのあがらない普通の男を好演している。現実的でおしゃべり好きな母・ケイトを演じたジューン・スキッブもアカデミー賞助演女優賞候補となった。
監督は『サイドウェイ』(02年)、『ファミリー・ツリー』(11年)でアカデミー賞脚色賞を2度受賞しているアレクサンダー・ペイン。これまでの監督作はすべて自身も脚本を手がけてきたが、今回初めて他人(ボブ・ネルソン)の脚本で映画化に臨んだ。だが、ネブラスカ出身で年老いた両親を持つ監督自身の境遇がデイヴィッドに反映され、いつもと変わらず、あるいはそれ以上に、家族という個体の持つややこしさと愛おしさ、不器用な人間同士のコミュニケーションが生み出す奇跡が、ときに可笑しく、しみじみと描かれている。(文:冨永由紀/映画ライター)
『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』 は、2月28日よりTOHOシネマズ シャンテほかにて全国公開中。
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