3月に入り、春休み映画が相次いで公開されている。邦画の話題作としては、7日公開『映画ドラえもん 新・のび太の大魔境 〜ペコと5人の探検隊〜』『銀の匙 Silver Spoon』、21日公開『神様のカルテ2』、29日公開『チーム・バチスタFINAL ケルベロスの肖像』といった作品が挙げられる。毎年恒例のアニメ映画や人気マンガ・ベストセラー小説の映画化、テレビシリーズの映画版だ。これら4本の配給は東宝で、1ヵ月に4本も公開するのは配給会社で最多。実は東宝は日本映画界を引っ張る存在で、年間最大の興行収入を誇っている。
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例えば昨年を例にとってみる。年間の総興行収入は673.2億円。邦画大手では松竹が98億円、東映が168.1億円で、両者を合計しても東宝の半分にも及ばない。洋画では上から順にウォルト・ディズニーが200億円、東宝東和が177.8億円、ワーナー・ブラザースが153.4億円、20世紀フォックスが80.9億円、ギャガが67.2億円で、5社を合計するとようやく東宝と同程度になる。
昨年の東宝の配給本数は31本で、松竹が25本(洋画含む)、東映が23本(洋画含む)。本数は東宝が多いものの、年間の総興行収入で大差がつく程ではない。実は東宝作品は1本1本のヒット確率が高いため、年間興行収入で大差がついてしまう。ヒットの目安である興収10億円以上の作品は、東宝が21本なのに対し、東映が6本、松竹が3本だ。
東宝の配給作品の特徴は「アニメ」「テレビ局製作の作品」「自社企画・製作の作品」の3つのタイプのバランスがとれていること。この背景には、強い劇場網の存在がある。東宝は傘下に大手シネコンチェーンのTOHOシネマズを所有し、全国に58劇場がある。イオンシネマに次ぐ規模で、シネコンはこの大手2社が3位の松竹マルチプレックスシアターズ26劇場を大きく引き離している。しかもTOHOシネマズは東京や大阪など大都市の繁華街に映画館がある。東宝が配給すれば、自社の劇場網を中心に上映してヒットしやすい環境がある。これをあてにしてアニメの製作会社やテレビ局が東宝に配給を委託するケースが多く、結果的に東宝にヒットしやすい作品が集まりやすい。3月公開作でいえば、アニメが『ドラえもん』、テレビ局製作が『銀の匙』『チーム・バチスタ』、自社企画が『神様のカルテ2』だ。
また東宝の強みは宣伝力だ。作品の宣伝計画を立案する宣伝プロデューサーや、テレビ・雑誌・ネットなどへPRを行う宣伝マンの数は映画界随一で、50人以上にのぼる。きめ細やかな宣伝と、ヒット作を数多く手がけてきたノウハウが合わさって強さを発揮する。さらに、アニメやテレビ局製作の場合は、テレビ局が自らプロモーション。自社企画では有名俳優を起用することが多く、彼らがテレビ各局でPR活動を行う。テレビ局の宣伝は洋画にはないメリットだ。しかも洋画の配給会社は、年間の配給作品が邦画に比べて少ないことから、社員宣伝マンの数が少なく、PRを外部のPR会社に委託することが多い。東宝のようにノウハウが蓄積されづらいのが実情だ。
東宝の配給作品は興収10億円以上を狙い、全国300館以上の規模で上映する。これまでは100館以下の中小規模公開作がなかったが、最近ではパッケージ作品を販売する映像事業部が独自に配給を始めている。昨年でいえば『JUDGE/ジャッジ』、アニメ『鷹の爪GO〜美しきエリエール消臭プラス〜』など、今年で言えば『ニシノユキヒコの恋と冒険』、4月4日公開『大人ドロップ』など。
一方、東京の繁華街への劇場オープンが相次ぐ。日本橋に3月20日にオープンさせた後、15年に新宿、17年には上野にオープンする。
中規模公開作の配給を始めたり、東京の繁華街の劇場網を増やす東宝。さらに強さを増して映画界を引っ張っていきそうだ。(文:相良智弘/フリーライター)
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