『そこのみにて光輝く』(4月19日より全国公開)
いま“再発見”された、20年以上前に自死した作家・佐藤泰志
私は画家ではダリやピカソが好きだ。スペインやシュルレアリスムが好きなのもあるが、“生前に成功したアーティスト”という要素も大きい。ゴッホはもちろん画家として偉大だが、どうも好きにはなれない。映画『そこのみにて光輝く』は1990年に41歳で自死した佐藤泰志原作による同名小説の映画化だ。佐藤は計5回芥川賞の候補となり、「そこのみにて光輝く」は三島由紀夫賞候補となるが落選し、自ら命を絶ち、不遇の作家と呼ばれるにふさわしい人物である。しかし、佐藤の死後に再評価され、絶版となった作品群は古本屋では高値で売り買いされると聞くと、私としてはまさにゴッホ的というか、死去したから価値が上がるっていうパターンじゃないの?と、ついいぶかしく思い、逆に読みたくなくなってしまう。
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2010年、佐藤の故郷である函館を思わせる地方都市を舞台にした「海炭市叙景」が映画化され、小規模な作品ながらヒットして注目された。同作は文庫本で再刊され、他の佐藤泰志原作の作品も文庫化された。ここへきてやっと私も、そんなに言うなら読んでやってもいいかな、と重い腰を上げて作品を手にした。彼の小説の印象はシビアで重く、決して明るくはない。しかしながら、主観的で自己中心的なものではなく、客観性とドライな空気があった。さらに、かぼそくはなく骨太とも言える生への力が感じられ、不思議と人生への肯定感が漂っていて、なるほど再評価されるのも納得できるものだった。
ついでに言うと、2013年には彼の生涯を描くドキュメンタリー映画『書くことの重さ〜作家佐藤泰志』も公開されている。死後20年以上経ったいま、再びというかほとんど初めて世間的に脚光を浴びたと言える。
今回映画化された佐藤泰志唯一の長編小説である「そこのみにて光輝く」も力強いほどのネガティブさと肯定感がないまぜとなった人間ドラマだ。社会的にも経済的にも、そして精神的にも底辺で生きる魂たちが寄り添い小競り合いながらも支えあっている姿が、男女のラブストーリーを主軸に描かれている。1980年代後半というバブル期に発表された小説だが、浮かれたムードは微塵もない。その証拠に、というべきか映画版の舞台は現代だが、違和感はない。それどころか格差社会の疲弊した空気は今の世の中そのもので、映画版でもそれがしっかりと写し出されている。
いま、なるべくして作家・佐藤泰志が再発見され、その作品が映画化され、私を含めて多くの人がその世界に触れられることを嬉しいことだ。(文:入江奈々/ライター)
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