『8月の家族たち』
メリル・ストリープとジュリア・ロバーツが母娘役で共演する『8月の家族たち』は、ピュリッツァー賞とトニー賞を受賞した舞台劇の映画化。父失踪の報を受け、年老いた両親の暮らすオクラホマの実家に三姉妹が帰省する。一家の主の安否の心配よりも、疎遠だった家族・親族が一堂に会して秘密や毒の吐き合いが始まり、壊れた家族が修羅場を繰り広げていくブラックコメディだ。
・【週末シネマ】家族の良さと面倒くささを、ときに可笑しくしみじみと描き出す
ストリープ扮する母・ヴァイオレットはガン闘病中で、住み込みの家政婦の助けなしでは何もできない体だが、凄まじく辛辣で、容赦ない言葉を娘たちに浴びせかける。長女・バーバラ(ロバーツ)には破局寸前の夫(ユアン・マクレガー)と思春期で反抗的な娘(アビゲイル・ブレスリン)がいる。控えめな次女・アイヴィー(ジュリアンヌ・ニコルソン)は秘密の恋をしている。そして三女・カレン(ジュリエット・ルイス)は新しい婚約者(ダーモット・マローニー)を連れて来る。ヴァイオレットの実妹(マーゴ・マーティンデイル)も夫(クリス・クーパー)と息子(ベネディクト・カンバーバッチ)を伴って駆けつける。失踪したアルコール依存症の父親はサム・シェパード。実力も華もあるスターが勢ぞろいするキャストだ。
売り言葉に買い言葉、あるいはいい歳をした母娘の取っ組み合いで、むき出しの愛憎が叩きつけられる。舞台劇そのままのような、あまりに劇的な熱演合戦なのだが、その過剰さこそがこの家族の個性と思わせるのはさすが。ストリープとロバーツの力技と、その嵐のような激しさを受ける共演者たちのアンサンブルは見応えがある。特にマクレガーやクーパーの抑えた佇まい、序盤で姿を消すシェパードの余韻は素晴らしい。
真面目で完ぺきな長女、不器用な恋に生きる地味な次女、奔放な三女。それぞれの事情を抱えた姉妹と伴侶を失った親という設定は、細かな設定などに差異はあるが、向田邦子の「阿修羅のごとく」を思い出させる。身も蓋もない本音や秘密の暴露の応酬の激しさは、日本の昭和の家族のやりとりとはだいぶ温度差はあるが、家族の絆というものの美しさだけではない本質をまざまざと見せつける点ではよく似た味わいだ。原作戯曲を手がけたトレイシー・レッツが脚色にあたり、ジョージ・クルーニーが製作、監督はベン・アフレック主演『カンパニー・メン』(11年)のジョン・ウェルズ。(文:冨永由紀/映画ライター)
『8月の家族たち』は4月18日よりTOHOシネマズ シャンテほかにて全国公開される。
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