カンヌ受賞の早川千絵監督「映画は、時空を超えたコミュニケーション」

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PLAN 75
(C)2022『PLAN 75』製作委員会/Urban Factory/Fus
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高齢者が自死を選ぶ制度<PLAN75>

75歳以上の高齢者が自死を選ぶ権利を保障・支援する社会を描き、第75回カンヌ国際映画祭オフィシャルセレクション「ある視点」部門でカメラドール特別表彰に輝いた映画『PLAN 75』が6月17日より公開される。このたび、日本外国特派員協会での記者会見が行われ、早川千絵監督、ステファニー・アリアン、水野詠子プロデューサーが登壇した。

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カンヌ国際映画祭での思い出を尋ねられた早川監督は次のように振り返った。

「今回、フランスとフィリピン、そして日本との合作なのですが、コロナ禍ということもあり、プロデューサーたちに直接会うことが出来ませんでした。カンヌで初めて全員で集まれたことが何よりも嬉しかったです」

ステファニーも笑顔で次のように語った。

「日本以外の国際映画祭に参加したのは初めてのことだったので、とても嬉しかったです。あっという間でしたが、非常に楽しい経験になりました」

水野プロデューサーは積年思いの実現に満足げだ。

「私が早川監督と初めてお会いしたのは、2014年に早川監督がシネフォンダシオン部門に参加し、『ナイアガラ』がカンヌ国際映画祭で上映された時でした。密かなミッションとして、本作品で再び一緒にカンヌに戻ってこられたらと思っておりましたので、その夢が叶ったことがまずは大きな喜びでした」

コロナ禍を受け、脚本を3年で10回リライト

是枝裕和監督が総合監修を務めた映画『十年 Ten Years Japan』で製作した短編を再構築する際に苦労した点を質問された早川監督は、次のように語った。

「もともとは長編映画を作ろうとしていたのですが、『十年 Ten Years Japan』に参加する事が決まり、短編で映画化しました。しかし短編の『PLAN 75』では問題提起をすることまではできたのですが、再び長編にする際にそれだけでは足りないのでは? と思い、脚本を何度も何度も書き直しました」

そして、コロナ禍が作品に影響していったことも明かした。

「2019年にコロナ禍になり、もう現実がフィクションを超えてしまったと感じ、現実でこんなに厳しい状況が続いているのに、更に人々の不安を煽るような作品を作るべきなのだろうかと大変悩みました。この作品で何を言うべきか? とテーマや要素をどんどん削ぎ落としていって、何か希望のようなもの……私たちがどのようにこれから社会を望むかという願いを込めるのかが大事だと気付いて、今の形になりました」

結果、脚本の執筆に足掛け3年を費やし、10稿以上も書き直したという。

「安楽死、尊厳死の是非を問う作品ではない」

参加者からは、尊厳死についての質問も飛びだした。

早川監督は次のように考えを述べた。

「この映画は大前提として、安楽死、尊厳死の是非を問うものではありません。人が死に対してどういう姿勢で臨むかというのは個人的なことので、他人が何か言うことではないと思っています」

水野プロデューサーも同じように作品に込めた思いを訴えた。

「生きていること自体が尊いというメッセージを伝えたい。早川監督と私たちは、すべての命を全肯定したいと思って、この作品を作ってきました」

フィリピン人同士の絆やコミュニティの描かれ方について、ステファニーは次のように感謝の気持ちを述べた。

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「私は日本に移住して10年目ですが、この作品に参加したことで、フィリピンに住んでいる家族と密に連絡を取るようになったり、フィリピンの生活を振り返るきっかけになりました。監督はリアリティを持って、私たちフィリピン人のことを作品に反映してくれました。困っていたり、何かをしようとしたら、フィリピン人のみんなが母親のように手助けしてくれる。家族のような付き合いになる部分をしっかりと描いてくれました」

早川監督は、「なぜ映画監督を志したのか?」という質問には次のように打ち明けた。

「小学4〜5年生の時に観た『泥の河』が原点でしょうか。自分の抱えていた言葉にならない、出来ない感情が劇中で描かれていると感じ、この映画を作った人は私の気持ちを分ってくれている! と思いました。映画の素晴らしさは、世界を自分と同じ眼差しで見つめている誰かが、世界のどこかにいる。時代や場所、時間は違うかも知れないけど、そういったものを超えてコミュニケーションがとれるところだと思います」

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社会的弱者に向けられるあたたかい視線。「生きるとは何か?」を問う

本作品は、早川監督が「経済的合理性を優先し、人の痛みへの想像力を欠く昨今の社会に対する憤りに突き動かされて生まれた映画です。倍賞千恵子さん演じるミチという女性の姿を通して、人が生きることを全肯定する。そんな映画にしたい」と、是枝裕和監督総合監修のオムニバス映画『十年 Ten Years Japan』の一篇を再構築、キャストを一新して臨んだ初長編映画だ。

国は高齢化問題に対処するため、75歳以上の高齢者に自ら死を選ぶ権利を保障し支援する<PLAN 75>という制度を施行。高齢者の間では、自分たちが早く死ぬことで国に貢献するべきという風潮がにわかに広がりつつあった。

夫と死別後、ホテルの客室清掃の仕事をしながら、角谷ミチ(倍賞)は長年1人で暮らしてきた。市役所の<PLAN 75>申請窓口で働く岡部ヒロム(磯村勇斗)や申請者のサポート業務を担当する成宮瑶子(河合優実)は、制度に疑問も抱かず業務に邁進する日々を送っていた。フィリピンから単身来日した介護職のマリア(ステファニー・アリアン)は、幼い娘の手術費用を稼ぐため、より高給の<プラン 75>関連施設に転職。利用者の遺品処理など、複雑な思いを抱えて作業に臨む日々を送っている。そんなある日、ミチの職場で高齢のスタッフが勤務中に倒れたことを理由に、ミチは退職を余儀なくされる。職を失い、住む場所さえも失いそうになったミチは<PLAN 75>の申請手続きを行うか考え始め──。

年齢で命が線引きされてしまうことの恐ろしさと、そのようなシステムを生み出してしまう社会構造や人々の意識への痛烈な批判を込め、生きるとは何かを問いかける。

『PLAN75』は、6月17日より全国で公開される。

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