●「節回しが聖子ちゃんそっくりでハッとする」
先日『アナと雪の女王』の日本語吹替版を見に行った時に、隣に座った饒舌な熟年夫婦が上映前に交わしていた会話──。
夫「松たか子の歌のウマさにはもちろん感心するんだけどさ、神田沙也加もずいぶん本格的な歌手になったもんだね」
妻「最近はずっとミュージカル方面で活動してたみたいよ。親が親だから最初は色眼鏡で見てたけど、知らないうちに立派になられたわね」
夫「たまに節回しが聖子ちゃんそっくりでハッとするんだよなぁ。でもお母さんが松田聖子というのと関係なくウマいね。まぁ、俺はどっちも好きだけどさ」
・[動画]『アナと雪の女王』神田沙也加が歌う本編クリップ映像
たぶん吹替版を2度以上は見ているリピーターのようで、とにかく神田沙也加を褒めまくり。でも『アナ雪』を見た人で、このご夫婦と同じような感慨を持った人は少なくないんじゃないだろうか。かく言う僕も、彼女がここ数年で「レ・ミゼラブル」や「ピーターパン」「赤毛のアン」などの王道ミュージカルに立て続けに出演して、その道の注目株になっていることなどよく知らず、「ever since」の頃に比べると確かに本格的な歌手になったなぁ……なんてご主人の言葉を反芻しながら、吹替版を堪能した。
●「ever since」から12年の変化
ちなみに「ever since」というのは神田沙也加がSAYAKA名義でリリースした2002年のデビュー・シングルで、作詞は彼女本人、作曲はthe brilliant greenの奥田俊作が担当。たとえばジョン・レノンの長男、ジュリアン・レノンのデビュー曲「ヴァロッテ」とか、尾崎豊の一人息子の尾崎裕哉がCMで歌った「I LOVE YOU」を聴いたときのような「うわっ、似てる!」というタイプの驚きはその時点ではなかったものの、15歳という年齢の割に作家志向が強く、同時に年相応の不安定さとか未完成さを併せ持つ感じが魅力的に思えて、当時けっこう肩入れした憶えがある。
この曲以降の活動は熱心にフォローしなくなってしまったので、僕は12年間ほど勝手に“さやロス”していたことになり、それだけに序盤に流れる「生まれてはじめて」での松たか子とのデュエットのスケール感、そして「ever since」ではさほど感じなかった“松田聖子のDNA”に卒然と驚かされたわけだ。…後編へ続く(文:伊藤隆剛/ライター)
・後編/『アナ雪』で松たか子&神田沙也加の歌手としての器量を再認識
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