『スイートプールサイド』
切なくて美しい映画史に残る剃毛シーン!
2004年に「週刊ヤングマガジン」で連載された押見修造原作コミック「スイートプールサイド」が映画化された。体毛が生えないことに悩む男子・年彦が、毛深いことに悩む女子・綾子から体毛を処理するように頼まれるという、ちょっとアブナくて奇妙な関係を描いた青春ドラマだ。
原作者・押見修造は2014年6月号の「別冊少年マガジン」誌で完結したことが話題となった人気コミック「惡の華」で注目される漫画家だ。「惡の華」もネガティブな青春にスポットを当てた青春変態漫画だが、暴走しまくって大変なことになっている。絶望的ではあるが、振り切って行動に移してしまっているさまが羨ましく感じないと言えばウソになる。普通はここまで振り切ってしまえないがために、一般市民の、「惡の華」で言うところの“クソムシ”どもの青春は悶々としているのだ。
やはりこの“悶々”としているところがカギで、だからこその悲劇と切なさ、そして愛おしさがある。筆者が愛してやまない青春変態映画『月光の囁き』は需要と供給が奇跡的に合致しているが、やはりそれぞれがそれぞれの立場で悶々としているからこそ成立しているものである。
その意味では「スイートプールサイド」の悶々は実に正統派だ。この悶々とした青春の姿は、自分のこっぱずかしい青春とも重なり、思い出したくない気もするが、同時に愛すべき対象にもなる。女子がいくら毛が濃いことに悩んで迷走したとしても、男子に毛を剃ることを頼むなんてことは有り得ない。が、ここは漫画や青春映画のファンタジーとしてすんなり受け入れられる。そして、映画版『スイートプールサイド』の剃毛シーンは悶々としていて、それでいて美しく、切なくて愛おしい、青春映画史に残るシーンだ!
原作ではまさにプールサイドの更衣室という密室で行われているが、映画版では橋の下の草ぼうぼうの空き地が舞台となっている。漫画でならオッケーでも、実写で密室の更衣室となると生々しくてねっとりした空間になり過ぎるだろう。橋の下という物理的にも心理的にも日陰でありながら、野花が咲く空き地は牧歌的でのどかで平和な空気がある。そんなところで繰り広げられる剃毛はイケナいことをしている緊張感やら、刃物を使っていて本当に危険な緊張感や、生身の肌が触れ合うドキドキやらで胸の高鳴りは抑えられなくなってしまう。…後編に続く(文:入江奈々/ライター)
『スイートプールサイド』は6月14日より全国公開される。
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