『スイートプールサイド』
主演2人が愛おしい青春像を体現
「惡の華」の人気漫画家・押見修造の初期の名作──2004年に「週刊ヤングマガジン」で連載された「スイートプールサイド」が映画化。体毛が生えないことに悩む男子・年彦が、毛深いことに悩む女子・綾子から体毛を処理するように頼まれるという、ちょっとアブナくて奇妙な関係を描いた青春ドラマだ。
・【元ネタ比較】『スイートプールサイド』前編
・【元ネタ比較】『スイートプールサイド』中編
剃る側の年彦を演じる須賀健太は思春期の少年の真剣なソワソワ、ドキドキが溢れ出ていて非常にいい。石ケンをせわしなく泡立てながら落ち着かずにウロウロしてる姿はぶざまでかわいくてギュッと抱きしめたくなる。『ALWAYS 三丁目の夕日』の淳之介少年の面影を残しつつ、子役出身にありがちなとっちゃん坊や風のイケてない風貌も絶妙だ。
剃られる側の綾子を演じる刈谷友衣子は、綾子役として完璧といっていいほど素晴らしい。スクール水着を着た細すぎないボディラインも、毛量の多い黒髪も。澄んだ眼差しとなにか物言いたげな口元も、女性の私でもドキドキしてしまう。そして、年頃の女の子としては、ある意味ベッドシーンよりも恥ずかしくてたまらないであろう剃毛シーンをよくぞ演じてくれた! その勇気と嬉し恥ずかしの剃られっぷりに感謝したい。
この剃毛シーンだけでも本作を見る価値は十分にある。陰毛が隠語で“茂み”や“草むら”と称されるように、“毛”を植物として表現したメタファーな映像もメルヘンチックで美しい。同世代だと、女子より男子のほうが精神面でも肉体面でも成長が遅くて幼いイメージも伝わってくる名シーンだ。
しかし、中盤、年彦にちょっかいを出してくるクラスメイトの女子・坂下が年彦にキスを求めるあたりから、行き過ぎ感が出てきてしまう。原作も映画版前半も、皆、“悶々”の定義から外れず、脳内暴走はしているだろうが行動には移さない、移すことができないでいてそこがいい。そこは踏み越えてはいけないだろう、踏み越えられないからこその“クソムシ”どもの悶々の青春だろうと思うのに、後半は踏み越えてはいけないラインを踏み越えて主人公も暴走を始めてしまう。脚本もつとめる松居監督が、暴走しまくる話題作「惡の華」に感化されて、ひっぱられたのかもしれない。
とは言え、「惡の華」のように周囲を巻き込むことなく、何ごとも起こさず、起こらずに収束してゆく流れには好感が持て、ほっと安心できた。それでいて、ちょっと胸がざわつくラストは、原作の余韻を残していて嬉しい。欲を言えばもっともっと、悶々とキュンキュンとさせて欲しかったのだけども。
ついでに触れておくと、漫画版は10年を経て「別冊少年マガジン」2014年7月号で番外編が発表されることとなった。筆者はこの記事を書いている時点でまだ読めていないのだが、この番外編は、原作者が映画版に即発されて描いたのだとか。踏み越えてはいけないラインを踏み越えず、どうか悶々としていますように。
(文:入江奈々/ライター)
『スイートプールサイド』は6月14日より全国公開される。
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