『告白』で日本アカデミー賞最優秀監督賞と最優秀脚本賞を受賞し、劇場も大ヒットした中島哲也監督の新作『渇き。』が公開される。「このミステリーがすごい!」大賞を受賞した深町秋生原作の「果てしなき渇き」を、役所広司をはじめとした豪華キャストで映画化している。
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冒頭いきなりの惨殺シーンから始まり、狂気をはらんだ主人公が失踪した娘を追ううち、非道な事件が起こり、エグい過去が暴かれていく。物語は現在と過去と妄想が交錯して展開していき、妄想? 過去? なんなの?と混乱するおそれもあるが、とにかくえげつないんだという内容は伝わってくる。
そこで描かれるのは当然ながら暴力や狡さや弱さといった人間のイヤ〜な部分。失踪した娘のミステリアスな人間像を多面的にいろんな人物の口から語らせようとするが、描かれる娘像は一面的にイヤ〜な人間というもの。“描かれる”と言ったのは、“炙り出される”“浮き彫りにされる”というよりもっと表面的な印象を受けるから。
そう、中島監督作品は露悪的にわざわざ人間の暗部をえぐって見せるのだが、人間について考えさせられはしない。その証拠にこんなにイヤ〜な部分を見せられても、後をひくことなくスパッと「さて、晩ご飯はなに食べようかなぁ?」と切り替えられる。試写室を出るときも「殺される人数を数えてたけど、途中でやめちゃった〜(笑)」という談笑が聞こえてきた。
中島監督は内容やジャンルは違えども、人間のダメでイヤ〜な部分から生じる悲劇を描きたがる。しかも、物理的な暴力も精神的な暴力も非常に過激。それでいてスローモーションやアニメを多用した映像は不謹慎なぐらいにポップで面白い。そこにインパクトがあって斬新なイメージを受け、興味をそそられる人は多いだろう。ただ、そのアグレッシブな演出法で目くらましされるが、果たして人間の内面に肉薄してると言えるだろうか。そもそも中島監督自身、そこに興味を持っているんだろうか? 彼の代表作は『下妻物語』、『嫌われ松子の一生』、『パコと魔法の絵本』、『告白』とどれもこれも元ネタのあるものばかりでオリジナルではないのがそれを物語っているんじゃないだろうか。
結局、筆者の思う中島監督のベスト作品は、ドラマティックという意味では比較的起伏の少ない『下妻物語』だ。でも、もっと言えば、やはり中島監督の真骨頂は山崎努、豊川悦司が出演したサッポロ黒ラベルの温泉卓球のCMだろう。世の中で一番ゆるい時間であるはずの温泉卓球を緊迫感あふれるドラマティックな映像に仕上げ、そのギャップは面白くて笑えた。ドン底の悲劇を軽くポップに描かれるのは神経を逆なでされるが、逆のギャップは歓迎だ。ぜひ、この路線を追求していってほしい。(文:入江奈々/ライター)
『渇き。』は6月27日より全国公開される。
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