ロビン・ウィリアムズ
あの人は今どうしているのか。アントニオ・バンデラスは「伝説になった」とその死を悼んだ。8月11日(現地時間)にカリフォルニア州の自宅で亡くなったロビン・ウィリアムズについて、今回は振り返りたい。
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ロビン・ウィリアムズといえばこれ、という作品はどれだろう。アカデミー助演男優賞を受賞した『グッド・ウィル・ハンティング』だろうか。見事な扮装でベテラン家政婦に化けた『ミセス・ダウト』だろうか。多感な時期を寄宿学校で過ごす少年たちに自由を教える教師を演じた『いまを生きる』だろうか。『フィッシャー・キング』、『フック』、『アラジン』、『グッドモーニング、ベトナム』……、挙げていくときりがない。
シカゴの裕福な家庭に育ち、ジュリアード音楽院演劇科で学んだロビンはスタンダップコメディアンとしてキャリアをスタートさせ、1978年から始まったTVシットコム『Mork and Mindy(原題)』で地球にやって来た宇宙人・モーク役で人気者になった。日本での放送はなかったが、資料映像で見るモークは親しみやすい笑顔で突飛な言動で周囲を笑いの渦に巻き込む、まさに皆から愛されるロビン・ウィリアムズの原点だ。
主演作を携えてたびたび来日したが、マスコミ相手の記者会見でも自分のために集まった人を前にすると止まらない。限られた時間の大半が、映画宣伝とはあまり関係ない物真似やギャグに費やされることはシリアスなインタビュー番組などでもしょっちゅう起きていた。凄まじいサービス精神であり、今にして思えば、人一倍繊細な自分の精神を守ろうとする“攻撃は最大の防御”の典型ともとれる。
ちょっとやり過ぎ?というくらいの騒々しさと、口をつぐんだときにふと見せる壊れそうな脆さをはらんだ笑顔。どちらにも通じるのは底なしの優しさだ。多くのファンはその優しさや傷つきやすい心を無意識に感じ取り、ますます彼に魅了されたのだ。
悲しいきっかけだが、今回彼の代表作のいくつかを見直して改めて、彼が愛されるスターであると同時に、本当に良い俳優だったことに気づかされた。体の動きに見入ってしまう。表情や声色、ジョークもだが、役に応じて変幻自在の身のこなしに注目してほしい。そして、相手を観察して返す反応の速さ、的確さ。伝説的なマンガのキャラクターであるポパイ、通常の四倍速で成長する40歳の容姿の10歳の少年(『ジャック』)、人間になりたいロボット(『アンドリューNDR114』)など、とてつもない難役を与えられたのも、アルトマンやコッポラといった巨匠がその能力に賭けたからなのがよくわかる。
オスカー受賞後の2000年代以降、明るく楽しいよりも、コメディであっても笑いの中に毒のある作品やサイコサスペンスへの出演が目立つようになった。たとえば『ストーカー』。孤独な写真技師が、幸せな顧客一家に執着していく様を鬼気迫る名演で表現した。あまりに真に迫った演技はファンですら引いてしまいかねないほど。
この頃、ロビンは20年近く絶っていたアルコールやドラッグへ再び依存していき、その後にリハビリで立ち直るも不安定な状態が続いていたようだ。また、ロビンの死後に夫人が、彼が初期のパーキンソン病だったことも明らかにした。
筆者が初めて俳優ロビン・ウィリアムズを見た作品であり、質の高いものが数多い出演作のなかでも最も好きな作品は1982年『ガープの世界』だ。波瀾万丈な生涯をいかに受け容れて生きていくかを描いた本作に何度救われたことか。
『ガープの世界』の主題歌はビートルズの「When I’m Sixty-Four」。僕が64歳になっても必要としてくれるかい?と愛する相手に問いかける歌だ。もちろん、と答えたい。何十回目の誕生日が来ようと、彼が遺した作品で放つ輝きは色あせることなく、常に見る者を笑わせ、泣かせ、ときに怖がらせ、感動を与え続けていく。(文:冨永由紀/映画ライター)
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