あえてディズニーの規定演技から外れることで大成功を収めた『アナと雪の女王』に続いて、『眠れる森の美女』のスピンオフに留まらない“リ・イマジネーション”ぶりが評判になっている『マレフィセント』。数年前にはギレルモ・デル・トロやティム・バートンの名前が監督候補として挙がっていたけれど、結局メガホンを取ったのはそのどちらでもないロバート・ストロンバーグという、監督としては未知数の人。しかしこれがバートンの『アリス・イン・ワンダーランド』のプロダクションデザインを手がけた人というだけあって、ダークファンタジー的な世界観の作り込みは圧巻。なおかつデル・トロの『パンズ・ラビリンス』にも通じる濃密でこってりした色調も併せ持っていて、どちらのファンにも説得力のある作品に仕上がっていると感じた。マレフィセントとオーロラの関係が、あまりにも『ドラゴンボール』のピッコロと悟飯に似ているかな、なんて思ったりもしましたが……。
・[動画]『マレフィセント』大竹しのぶが歌う主題歌「ONCE UPON A DREAM〜いつか夢で〜」
この作品のエンディングテーマ「ONCE UPON A DREAM〜いつか夢で〜」は、本家である『眠れる森の美女』の劇中歌としてディズニー・クラシックのひとつに数えられる曲。日本語吹替版ではラナ・デル・レイの歌うオリジナルに独自解釈の日本語詞が付けられていて、大竹しのぶが歌を担当していることも公開前から話題になっていた。実は歌手としても40年近いキャリアを持ち、近年では主演舞台『ピアフ』などでもその歌唱力を披露しているものの、一般的には“大竹しのぶ=歌手”というイメージは希薄かもしれない。この「ONCE〜」を歌っている低い声の持ち主が大竹しのぶと知って驚いた人も多いんじゃないだろうか。
「Let It Go」のような派手さはないけれど、見る者の中にじわじわと沁み込んでくる大竹の歌声。かの『ミス・サイゴン』で本田美奈子. に主演の座を譲りはしたものの、オーディションに居合わせた人が「こんな歌をタダで聴いてしまっていいんだろうか」と思うほどに感激したというエピソードがリアルに伝わってくる歌唱だ。昨年リリースされた初めてのベスト盤『ゴールデン☆ベスト』には、1976年のデビュー曲「みかん」などのオーソドックスなポップスから、音楽劇『若きハイデルベルヒ』で共演した中村勘三郎とのデュエットなどのミュージカル曲、『ひらけ!ポンキッキ』の挿入歌まで多彩な曲が詰まっていて、この人の表現力の幅広さを大づかみすることができるのでおすすめしておきたい。
それともうひとつ、このベスト盤には未収録ながら、歌手としての大竹しのぶの作品で個人的に忘れられないのが、1995年のコンピレーションCD『オフ・オフ・マザー・グース』に収められた「二羽の小鳥」という曲だ。イラストレーターで映画監督でもある和田誠が英国伝承童謡の「マザー・グース」を自己流で訳し、それに作曲家の櫻井順が曲を付けたこのCDでは、全60曲にそれぞれ別の歌い手が割り振られている(後に続編『またまた・マザー・グース』も作られ、さらに60曲/60組が追加されている)。わずか45秒の一筆書きのような小品ながら、この人の歌の上手さが一瞬にして分かる一曲で、「マザー・グース」のモチーフをたびたび取り入れてきたディズニー作品をより深く味わうためにも押さえておきたいCDだ。(文:伊藤隆剛/ライター)
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