『ウィークエンドはパリで』
意外と歯ごたえのある映画だ。『ウィークエンドはパリで』というタイトルに嘘偽りはなし。『ノッティングヒルの恋人』のロジャー・ミッチェル監督による、結婚30周年を迎えたイギリス人夫婦が久しぶりに思い出の場所を訪ねる物語だ。だが、定年近い年齢の大学講師の夫と教師の妻がユーロスターでパリへと向かう冒頭から、すでに雲行きが怪しい。
些細なことで言い争い、パリに着いたら散策中に早速転んでしまったり、新婚旅行の時と同じホテルに予約するものの、若者でなければ耐えられないような安普請に閉口して超高級ホテルのスイートに飛び込みでチェックインしたり。美術館や街歩き、ビストロで食事をし、どんよりとした現実から非日常に逃避したものの、結局それをきっかけに夫婦の抱えている不満や欲望、秘密がにじみ出してくる。
夫婦を演じるのは『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』のジム・ブロードベントと『トスカーナの休日』のリンゼイ・ダンカン。いかにも“今はすっかりただの年寄りだけど、昔はトンガっていた”風のいい歳をしたインテリ・カップルが自由を気取って羽目を外すのは、人に迷惑をかけるのを嫌う日本人にとっては意味不明の行動だし、見ていてちょっと寒々しい。音楽はボブ・ディランにニック・ドレイク、映画ならゴダール、と何のヒネリもないわかりやすい趣味も恥ずかしい。だが、その決まりの悪さが実にリアルで、逆に身につまされる。共感しにくいわがままを、そのまま描いたことがポイントといってもいい。
どうもパッとしない週末旅行は、パリで偶然、夫の大学時代の友人と再会したことで新たな展開を迎える。アメリカ人で人気作家のその男を演じるジェフ・ゴールドブラムがいい。インテリでセクシーな成功者のスマートさをうまく醸し出している。若かりし日に憧れたゴダールの映画の1シーンを今一度再現してみたり、3人で旧交を温めるが、その結果、夫妻は思いも寄らぬ局面を迎える。この思いがけなさは、ぜひ劇場で確認してもらいたい。
コメディであり悲劇であり、やはりコメディ。要は人生そのもの。歳を重ねるだけじゃ、賢くも立派にもならない。少しも達観できず、探すつもりもなかった自分を見つけてしまった苦さ。そんな境地がここで描かれている。(文:冨永由紀/映画ライター)
『ウィークエンドはパリで』は9月20日より全国順次公開中。
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