ドイツ研究者と大学生が激論「ユダヤ」「ナチス」そして「ホロコースト」……
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8・5公開『ファイナル アカウント 第三帝国最後の証言』試写会イベント
“第三帝国”にかかわった市井の人々の証言を記録したドキュメンタリー『ファイナル アカウント 第三帝国最後の証言』(原題:Final Account)が8月5日から、TOHOシネマズ シャンテ、渋谷シネクイントほか全国で公開される。この度、ドイツ現代史研究者の小野寺拓也(東京外国語大学准教授)とドイツ映画・映像文化研究者の渋谷哲也(日本大学教授)を招き、ティーチイン付き大学生向け試写会イベントを実施した。
同作は、ヒトラー率いるナチス支配下のドイツ“第三帝国”が犯した、人類史上最悪の戦争犯罪“ユダヤ人大量虐殺「ホロコースト」”を実際に目撃した人々──武装親衛隊のエリート士官から、強制収容所の警備兵、ドイツ国防軍兵士、軍事施設職員、近隣に住む民間人まで──終戦から77年を迎える今、「現代史の証言者世代」と呼ばれる高齢になったドイツ人やオーストリア人など、加害者側の証言と当時の貴重なアーカイブ映像を記録したドキュメンタリー作品だ。
そして、7月5日、13日の両日、新橋TCC試写室で、ドイツ文化やホロコーストに興味を持つ学生たちを招いた『ファイナルアカウント 第三帝国最後の証言』ティーチイン付き試写会を実施した。
5日にはドイツ現代史研究者で、同作の日本語字幕でナチス用語監修を担当した東京外国語大学大学院総合国際学研究院の小野寺拓也准教授が、13日にはドイツ映画・映像文化研究者で、同作の日本語字幕監修を担当した日本大学文理学部の渋谷哲也教授がそれぞれにゲストとして登壇。同作の背景をよく知る2人の解説はもちろん、映画を鑑賞した若者たちの意見が活発に飛び交う場となった。
5日は、ナチスの政策として、少年少女への教育が担う役割が大きかったという本編のエピソードを知った学生が「ヒトラーユーゲント(ナチスの青少年組織)の制服に憧れて入団したという子の話を聞いて、私の実家の近くにも、制服が可愛いから人気がある高校があったなということを思い出しました。すごく身近なところにも、恐ろしいことに加担するきっかけがあるんだなと。これは恐ろしいことだと思いました」と意見を述べると、小野寺准教授も「この映画を見ると、子どもの頃にナチスを体験した人と、ある程度大人になってから、自分の意志を持って参加した人というのは分けて考える必要があると思いますが、今おっしゃった制服への憧れというのは非常に重要な話で。ドイツ女子青年団でも似たような話がありました。その辺はもっと深めていける話題だと思います」と返答。
その後も学生ならではの忌憚のない意見が次々と飛び出すなど、会場に集まった若者たちに同作が強烈なインパクトを与えた様子だった。
さらに「今回の映画では、証言者は男性と女性で同じくらいだなと感じたんですが、ある種、女性の方がライトな印象があって。やはり男性は前線で戦って、女性は後方で支援する役割なので、罪の意識が多少軽減されているのかなと思いました」といった意見や、「“(ホロコーストを)知らなかった”という言葉が一面的ではなくて多義的で。人によって考え方が違うなと思いました」といった意見が次々と飛び出し、議論が深まったところで、トピックはこうした事例を、次世代にいかにして伝えていくか、というテーマに。
「その当時を知る人たちはどんどん亡くなっていくので、今後はこうして彼らの言葉を聞く機会は難しくなるわけです。そういう意味でこの映画は大きな示唆を与えてくれると思います」という小野寺准教授の問題提起に対して、ひとりの学生が「私自身も今まで本を読んできて、知識として知ってはいましたけど、今回の証言者たちの声を聞いて、より鮮明なものに聞こえたというのがあります」と発言。
それに対して「リアリティというのは、お前の想像は間違いだぞと突きつけてくれるものですからね」と小野寺准教授は理解を示した。
その後も学術書だけでなく、映像や物語などを通じて伝えていくことの可能性など、話題は多岐にわたり、同作をきっかけに、多くの議論を深める機会となった。
続く13日は、映画上映後に登壇した渋谷教授が「みなさんお気づきだと思いますが、この映画はナレーションとか、地図などを出して、問題の全体像を示すということをしていない。禁欲的な作りなので、みなさんが気になったところをどんどんと挙げて、あぶり出していき、解きほぐしていきましょう」と呼びかけた。
映画を鑑賞して生じた学生たちの疑問に、可能な限り答え、解説していくというスタイルで、この日のティーチインイベントが行われた。
現代のドイツ人はナチスをどう考えているのか
まずは自身のルーツがユダヤ人であることを、後になってから知ったという証言者のエピソードを例に、「ナチスはどのような基準で、ユダヤ人をユダヤ人であると判断していたのか」という学生からの質問があり、それには「家系、そして見た目の特徴」などで判別していたようだ、という事例を紹介した渋谷教授。
「ただしユダヤ人は商売をやる人、芸術家の割合が多いので、ナチスが政治的に利用できる人材なら恣意的な裁量で不問にされるケースもあった」という。
また、劇中で若い学生と証言者が討論し「ドイツ人であることを恥じるのか」と学生が語気を強めるシーンに、「何で学生は証言者に感情的になっているのか」という質問には、「ナチスを生み出したことはドイツ人全体の罪である。という考え方や、謝罪の意識を証言者が語ることに若者たちがうんざりしている気持ち、ドイツ人であることはいいことだと言えないのかという反発した気持ちが表れています。しかし、この証言者はドイツ人であることが恥とは言っておらず、武装親衛隊という殺人組織に所属し、当時それを誇りにしていたことを恥じていると冷静に語っているのです」と解説し、現代のドイツ人がナチスをどのように受け止め、考えているのかという複雑な問題があらためて浮き彫りになった。
学生ならではの鋭い質問が続出
さらに「ドイツ国内では、ホロコーストの存在を否定すると罪になると聞いたことがありますが、ここに登場する人たちは大丈夫なのか?」「本編中に囚人に歯を治療してもらったというエピソードがあったが、当時そのような交流はできたのか?」「ナチス犯罪に時効はないと聞いているが、同作に出てくる元武装親衛隊の人たちは罪に問われないのか? 」といった学生ならではの、率直かつ鋭い質問が次々と飛び出した。
「なかなか答える方も冷や汗ものですね。こういった映画のトークショーにはよく参加していますが、今日は今までよりも緊張しました」と渋谷教授が語るほどに、白熱したティーチインイベントとなった。
『ファイナル アカウント 第三帝国最後の証言』は、8月5日から全国で公開される。
[訂正のお知らせ]
写真のお名前が、小野寺拓也准教授と渋谷哲也教授で逆になっておりました。お詫びして訂正致します。
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