実在した海賊紳士の物語をコメディ・タッチで描いたドラマ
【週末シネマ】『海賊になった貴族』はタイトルそのままの人物、何不自由ない生活を捨てて海賊を志した18世紀の実在の“海賊紳士”スティード・ボネットの物語をコメディ・タッチで描く。『ソー:ラブ&サンダー』のタイカ・ワイティティ監督が製作総指揮にあたり、スティードが出会う伝説の海賊“黒髭”を演じている。
製作総指揮及び原案と脚本を手がけたデヴィッド・ジェンキンスが史実を自由に脚色し、1話30分前後の全10話シーズン1はU-NEXTで配信中だ。
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1717年、バルバドスで妻と子ども2人と暮らしていた地主のスティードはある日突然、海賊として名を上げることを思い立つ。裕福だが、家庭に居場所のない彼は航海の経験もないのに船を購入して「リベンジ号」と名づけ、寄せ集めの手下を連れて海に出た。だが、暴力も血を見るのも苦手なスティードは彼らからも馬鹿にされるばかりだ。それでも、自分たちに固定給を支払い、夜寝る前に物語を読み聞かせるスティードの人のよさにほだされる乗組員もいて、船上でドタバタを繰り広げながら、リベンジ号は海を進んでいく。
海賊紳士をリス・ダービー、黒髭をタイカ・ワイティティが演じる
スティードを演じるのは『ジュマンジ/ウェルカム・トゥ・ジャングル』『ジュマンジ/ネクストレベル』のナイジェル役のリス・ダービーだ。ワイティティと同じくニュージーランド出身で、同世代の2人は長年の友人同士でもある。そして本シリーズ第1話を監督したワイティティは、スティードと運命の出会いを果たす海賊の黒髭ことエドワード・ティーチを演じている。
エドワードは髪も髭も、黒というよりは最早ごま塩状態。海上なのに『マッドマックス2』そっくりの全身ブラックレザーという非実用的な装いはナンセンスだが、ワイティティの着こなしはクールで、悪のカリスマとして完璧な外見だ。とはいえ、エドワード本人は海賊船の手下たちをはじめ多くの人々が憧れや畏れを抱く黒髭の虚像に苦しんでいる。自ら作り上げた神話に縛られたエドワードも、家族との不幸な関係に悩むスティードも、虚勢を張る一方で弱々しく悩む姿を隠しきれず、周囲は見て見ぬふりをしたり、しなかったり、だ。
友情からロマンスへ、その過程を繊細に描く。シーズン2にも期待
強面で押し切ってきたエドワードは、疑うことを知らない天真爛漫なスティードと不思議に気が合い、惹かれ合う2人はやがて恋に落ちる。スティードとエドワードのロマンスは原案と製作総指揮のデヴィッド・ジェンキンスによる発想だが、あり得ない組み合わせの2人に友情が芽生え、やがて不器用なロマンスに発展していく過程の繊細な運びが素晴らしい。
バディ映画にしてロマンティック・コメディでもあり、主人公のカップルのみならず、海賊たちやスティードの家族のキャラクターも多様で魅力的に描かれる。時代劇でありながら登場人物たちが現代人の共感を誘うのは、現在放送中のNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』にも通じる“今”らしい作劇だ。
ゆるく笑わせるが、ふとした瞬間にチクリと刺すものがある。登場人物たちの哀愁が見える。階級、ジェンダー、人種についてのあらゆる差別が社会の常識然としてまかり通っていた時代が舞台だが、そうしたものは今も人心に無意識に蔓延っていることに気づかせる。もう1つ印象的なのは、ナイーブさを嗤わない姿勢だ。風刺を効かせながら、純真であることの美しさを描く。
どうなる? と気を持たせてシーズン1は終わるが、先日シーズン2の製作が発表された。海賊たちは史実通りの運命をたどるのか否か、どんな思いがけない展開になるのか。楽しみに待ちたい。(文:冨永由紀/映画ライター)
『海賊になった貴族』は、U-NEXTにて独占見放題配信中。
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