アメリカのアカデミー賞は世界で最も有名な映画賞だ。来年は2月22日に開催されるが、どんな作品がノミネートされ、受賞するのか。当日まで繰り広げられる受賞を巡る争いが「賞レース」だ。数ヵ月に渡り、マスコミが予想したり、多くの映画関連団体や批評家が優秀作品を選んで盛り上がっていく。賞レースはアカデミー賞特有のもので、他の映画賞や映画祭ではまず見られない(直前のマスコミ予想はあるが、それを「賞レース」とは呼んでいない)。
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近年、アカデミー賞との関連で注目されているのがトロント映画祭だ。9月に開催され、アカデミー賞の有力候補作が先駆けて上映されるからだ。コンペティション部門はないが観客賞があり、受賞作がアカデミー賞作品賞になることも多い。昨年は『それでも夜は明ける』が観客賞を受賞し、アカデミー賞の結果と一致した。今年はベネディクト・カンバーバッチ主演の『ジ・イミテーション・ゲーム(原題)』が受賞した。トロント映画祭を「賞レースのスタート」と位置付けるマスコミが多い。
賞レースが繰り広げられる背景には、アカデミー賞が映画ビジネスの成否と密接に結びついている事情があるだろう。近年のアカデミー賞は有力作が年末に小規模で公開され、年明けに拡大公開されることが多い。12月ごろから「アカデミー賞有力候補」とPRすることで批評家の注目を集め、観客増に結び付ける戦略だ。アカデミー賞にノミネートされれば、さらに観客が注目し、授賞式まで動員は伸び続ける。受賞を逃しても「アカデミー賞効果」が大いため、映画界をあげて賞レースを盛り上げる。
例えば昨年、最もアカデミー賞効果が大きかったのが『アメリカン・ハッスル』だ。ノミネート前には興収1億500万ドルだったものが、ノミネート後には4200万ドルを稼ぎ、授賞式後にはさらに300万ドルを売り上げた(総興収1億5000万ドル。ただし、受賞結果は10部門ノミネートで受賞はゼロ)。作品賞を受賞した『それでも夜は明ける』はノミネート前3900万ドル+ノミネート後1100万ドル+授賞式後600万ドル=5600万ドル。作品賞を受賞したからといって、アカデミー賞効果が最大になるわけではない。
一方、日本にも日本アカデミー賞があるが、ノミネートがビジネスの好調と結びついておらず、賞狙いで年末に公開することはない。アメリカのように「日本アカデミー賞有力候補」と宣伝する作品もない。興行的な価値より“名誉“の面が強いといえるだろう。
なお、世界中の映画祭のなかで、興行的な価値も名誉も高いのが世界3大映画祭(カンヌ、ベネチア、ベルリン)のコンペティション部門に選出されることと、各賞の受賞だ。特に受賞すると観客増に結び付きやすいため、製作者側は売値を高くするケースが大半だ。
3大映画祭は世界中の秀作を対象としているが、ヨーロッパで行われる映画祭という特性上、「ヨーロッパ映画を世界に発信する」ことも大きな目的だ。アメリカ映画を世界にアピールする場であるアカデミー賞に対抗する場ともいえる。(文:相良智弘/フリーライター)
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