11月22日に新作『日々ロック』の公開が控えている入江悠監督。その名前がよく知られるようになったのは、2009年の『SR サイタマノラッパー』(以下『SR』)が国内外でいくつもの映画賞を受賞し、その続編『SR サイタマノラッパー2 女子ラッパー☆傷だらけのライム』(以下『SR2』)が公開された2010年あたりからだろうか。2011年の『劇場版 神聖かまってちゃん ロックンロールは鳴り止まないっ』を間に挟み、『SR』シリーズは2012年の『SR サイタマノラッパー3 ロードサイドの逃亡者』(以下『SR3』)まで3作が公開されている。
この“SRサーガ”は3作それぞれに別の主人公が立てられていて、直接的な連作というわけではない。『SR』は埼玉に住むラッパー志望のニート=MC IKKU、『SR2』はIKKUのリスペクトするタケダ先輩の一番弟子を名乗る群馬の女子ラッパー=アユム、『SR3』は『SR』でIKKUたちと決別して東京に出たMC MIGHTYを中心に描いていている。“北関東3部作”と呼ばれるだけあって、埼玉、群馬、東京、そして栃木と、舞台もそれぞれに違う。
コメディ的要素の強い『SR』『SR2』に比べると『SR3』はかなりシリアスで救いのない話だが、IKKUとその相棒のTOMが変わらず陽性のオーラを発散させているおかげで、横並びにすると“少し長めの群像劇”を見ているような一体感がある。3作それぞれの終盤には主人公たちのラップ・バトルを長回しで収めたシーンが据えられているが、『SR3』のIKKU & TOM vs. MIGHTYで繰り広げられるバトルは、いろいろな要素が収斂しながら物語を『SR』へ回帰させていく。その瞬間こそ、“SRサーガ”の最大の見どころであることは間違いない。(…後編へ続く)(文:伊藤隆剛/ライター)
・『日々ロック』公開間近! 入江悠監督が『SR』シリーズで与えた衝撃/後編
伊藤 隆剛(いとう りゅうごう)
ライター時々エディター。出版社、広告制作会社を経て、2013年よりフリー。ボブ・ディランの饒舌さ、モータウンの品質安定ぶり、ジョージ・ハリスンの趣味性、モーズ・アリソンの脱力加減、細野晴臣の来る者を拒まない寛容さ、大瀧詠一の大きな史観、ハーマンズ・ハーミッツの脳天気さ、アズテック・カメラの青さ、渋谷系の節操のなさ、スチャダラパーの“それってどうなの?”的視点を糧に、音楽/映画/オーディオビジュアル/ライフスタイル/書籍にまつわる記事を日々専門誌やウェブサイトに寄稿している。1973年生まれ。名古屋在住。
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