【日本映画界の問題点を探る】性的シーンで震える生身の俳優たち、守るための取り組みは始まったばかり
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【日本映画界の問題点を探る/インティマシー・コーディネーターは普及するか 1】コロナ禍によって多くの変化を強いられた日本映画界だが、現在はMeToo運動を皮切りにさまざまな課題を突き付けられている。そんな過渡期を迎えているなか、新たな風を吹き込む存在として話題となっているのがインティマシー・コーディネーター(※)。いわゆる「ラブシーン」と呼ばれるような性的なことに関するシーンにおいて、俳優と制作陣の間で調整する役割を担っている。
※インティマシー(intimacy):親密、親密な関係の意
・ヌードシーンに必須なのはインティマシー・コーディネーター、オスカー女優の訴えとは?
インティマシー・コーディネーター発祥の地・アメリカでは、MeToo運動の流れから2017年にHBOのドラマ『The Deuce』で初採用。まだまだ歴史は浅いが、今後の映画業界において欠かせない職業となることは間違いないだろう。そこで、日本初のインティマシー・コーディネーターとして注目を集めている浅田智穂に、自身の活動内容や現場での様子、そして今後の日本映画界に対する思いなどについて話を聞いた。
Netflixからの依頼に、最初は尻込み
これまでは日米合作の映画『THE JUON/呪怨』や舞台『ミス・サイゴン』など、監督や演出家とキャストの間に入る通訳として数多くの現場に携わってきた浅田だが、白羽の矢が立ったのは2020年のこと。その年の夏にクランクインするNetflix映画『彼女』でインティマシー・コーディネーターが必要となり、Netflixからトレーニングを受けてもらえないかと声がかかったそうだが、当初は尻込みする気持ちもあったと打ち明ける。
「そもそもインティマシー・コーディネーターというのを知らなかったので、そこから始まったのですが、オファーを受けるかは迷いました。というのも、私は映画業界のことをある程度知っていたので、絶対に煙たがられるとわかっていたからです。特にスタッフのみなさんにとっては仕事が増えて負担だと思われかねないので、役割を理解してもらえるまではただの“邪魔者”だと感じられてしまうのではないかな、と。40代半ばで新しいことを勉強するだけでも大変なのに、そんなつらい思いをするとわかっているところにわざわざ入っていくことに対して、正直悩みました」
浅田が抱いていた不安は、おそらく映画の現場を知らない人でも容易に想像がつくのではないだろうか。一方で、ある思いが浅田を突き動かしていく。
「センシティブなシーンにおいて、俳優たちがどれほど大変な思いをしているのかを知っていたので、この職業がいかに大事であるかはわかっていました。もうひとつは、これまで日本とアメリカの現場を経験してきたなかで、改善できたらいいなと思うことはあっても、なかなか自分で変えることができない葛藤を感じていたことも大きかった。そのうちに、この職業に就くことで私でも何かを変えることができるのではないか、助けられる人がいるのではないかと考えるようになりました。そうなのであれば『なんて尊い職業なんだろう』と思うようになり、やってみることにしました」
現在、日本ではインティマシー・コーディネーターのトレーニングを受けることができないため、浅田はLAに本拠地を置くIntimacy Professionals Association(IPA)という団体のトレーニングを受講した。
「通常であれば修了まで3カ月以上かかりますが、コロナ禍で先生が自宅にいた時期だったこともあり、特別に毎日LAにオンラインで繋いで集中的に勉強させていただきました。まず初めに学ぶのは、ジェンダー論、セクシャリティ、性自認、ハラスメント、トラウマ、同意やコミュニケーションの取り方など。ほかにも、実際の脚本や映像を見ながらのケーススタディやSAG-AFTRAと呼ばれる全米映画俳優組合で決められているルール、前貼りの使い方、インティマシーシーンをリアルに見せるための振付け方などのワークショップも受けました。課題図書や宿題もかなりたくさんありましたが、テストと面談を経て合格となります。私の場合は約1ヶ月ほどで取ることができましたが、授業内容は本当に幅広かったです」
(text:志村昌美/photo:小川拓洋)
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