『日々ロック』
「僕は、この『日々ロック』を超える音楽映画を当分作れない気がする。いや、一生かも。それだけ、この映画にはいろんな音楽と、いろんな力が詰まっている」
映画『日々ロック』は、入江悠監督本人がそんなコメントを寄せるだけあって、最高に清々しい音楽映画だ。『SR サイタマノラッパー』以来、音楽にこだわって映画を撮り続けてきた入江監督のこれまでのキャリアを総まくりしたベスト・アルバム的な作品。もしくは、大衆性とニアイコールなエンタメ性の増量という意味で、メジャー・デビュー的な作品とあえて言ってしまってもいいと思う。いまも連載が続いている榎屋克優の同名漫画のエピソードを絶妙な匙加減で換骨奪胎しながら、原作の中心にある“見苦しいまでの激情”を浮き彫りにしている。
古くは『青春デンデケデケデケ』や『ロックよ、静かに流れよ』、『BECK』『NANA』『デトロイト・メタル・シティ』『グミ・チョコレート・パイン』『アイデン&ティティ』『フィッシュストーリー』『少年メリケンサック』など、ロックを題材にした映画は日本だけでもけっこうたくさん作られているが、本作の主人公=日々沼拓郎は、おそらくいま挙げたどの映画の主人公よりもロックに縁遠く見える存在。モテないし勉強もスポーツも苦手な拓郎だが、ロックを愛する気持ちは誰にも負けない。そんな拓郎を若手俳優の注目株である野村周平が全裸&アフロ&汗まみれで熱演している。ひょんなことから拓郎の運命を変えることになるトップアイドル=宇田川咲には、『劇場版 神聖かまってちゃん ロックンロールは鳴り止まないっ』以来の入江監督作品出演となる二階堂ふみ。物語は拓郎が仲間たちと結成するザ・ロックンロールブラザーズと咲の交流を中心に展開していく。
『SR サイタマノラッパー』では、音楽映画でありながら劇中でほとんど音楽を使用しないという斬新な手法を用いて鮮烈な印象を与えた入江監督だが、今回の『日々ロック』では大々的に音楽を導入している。劇中に占める音楽シーンの割合は、『SR』シリーズの続編『SR サイタマノラッパー2 女子ラッパー☆傷だらけのライム』や『SR サイタマノラッパー3 ロードサイドの逃亡者』に比べてもはるかに多い。それらの音楽シーンでは数々の実在のバンドやアーティストが楽曲提供や演奏という形で協力しており、音楽映画としての『日々ロック』の完成度を高めている。(…後編へ続く)(文:伊藤隆剛/ライター)
『日々ロック』は11月22日より公開中。
伊藤 隆剛(いとう りゅうごう)
ライター時々エディター。出版社、広告制作会社を経て、2013年よりフリー。ボブ・ディランの饒舌さ、モータウンの品質安定ぶり、ジョージ・ハリスンの趣味性、モーズ・アリソンの脱力加減、細野晴臣の来る者を拒まない寛容さ、大瀧詠一の大きな史観、ハーマンズ・ハーミッツの脳天気さ、アズテック・カメラの青さ、渋谷系の節操のなさ、スチャダラパーの“それってどうなの?”的視点を糧に、音楽/映画/オーディオビジュアル/ライフスタイル/書籍にまつわる記事を日々専門誌やウェブサイトに寄稿している。1973年生まれ。名古屋在住。
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