『日々ロック』
(…前編から続く)『日々ロック』の音楽面を取りまとめているのは、音楽プロデューサーの いしわたり淳治。1997年、20歳のときにSUPERCARのギタリスト/作詞家としてデビュー。2005年のバンド解散後は作詞家としてSuperfly、新垣結衣、SMAP、少女時代、布袋寅泰、剛力彩芽など幅広いアーティストに歌詞を提供しているほか、プロデューサーとしてもチャットモンチー、9mm Parabellum Bullet、The SALOVERS、OKAMOTO’S、NICO Touches the Wallsなどを手がけている。
基本的には作曲はせず、“ギターも弾ける作詞家”といったスタンスであることから、本作では主に「劇中どのタイミングで、誰が、どんな詞を歌うか」といった言葉の面での整合性を取るオブザーバー的な役割を果たしていると思われる。20歳そこそこで諦観あふれる詞世界を繰り広げていたSUPERCAR時代を知る人からすると、彼がザ・ロックンロールブラザーズのような“みっともなさ”むき出しのバンドを題材にした映画に関わるのは意外な気がするかもしれないが、SUPERCAR解散後の振り幅の広い(と言うか広すぎる)歌詞提供を考えれば特に不思議なことではない。
本作では、いしわたりが以前からプロデューサーとして関わっている9mm Parabellum Bulletの滝善充がザ・ロックンロール・ブラザーズの歌う「スーパースター」という曲を、The SALOVERSの古舘佑太郎(古舘伊知郎の長男)がロックンロール・ブラザーズの仲間バンド=犬レイプの「百姓勃起」という曲を提供(古舘は犬レイプのヴォーカルとして出演もしている)。その他、宇田川咲の歌うPerfume風の「SUNRISE」「ラブリーサマータイム」は初音ミク楽曲の制作などで知られるDECO*27、ザ・ロックンロール・ブラザーズのライバルのヴィジュアル系バンド=ザ・ランゴリアーズの「Rasen」はミサルカが手がけている。
楽曲提供しているバンドのなかでも特に大きな役割を果たしているのが、札幌出身の5人組バンド、爆弾ジョニーだ。本作ではザ・ロックンロール・ブラザーズがビートルズばりに“ルーフトップ・コンサート”をキメる最重要シーンで歌う「いっぱい」を提供しているほか、爆弾ジョニー名義で主題歌「終わりなき午後の冒険者」を提供している。いしわたり淳治はこの曲でも“Words Produce”としてクレジットされており、映画は最後までその世界観に基づいた楽曲で埋められていることが分かる。この曲に限らず、いしわたりは劇中歌に対して何度もリライトを依頼したらしく、“ちゃんとした音楽映画”としてのトータリティに彼が果たした貢献は大きい。
伝記ものやドキュメンタリーも含めると、今年は国内外でとてもたくさんの音楽映画が作られたが、『日々ロック』はそのどれとも似つかないオリジナリティを燦々と放っている。彼らの爆音を、ぜひとも劇場で体感していただきたい。(文:伊藤隆剛/ライター)
『日々ロック』は11月22日より公開中。
伊藤 隆剛(いとう りゅうごう)
ライター時々エディター。出版社、広告制作会社を経て、2013年よりフリー。ボブ・ディランの饒舌さ、モータウンの品質安定ぶり、ジョージ・ハリスンの趣味性、モーズ・アリソンの脱力加減、細野晴臣の来る者を拒まない寛容さ、大瀧詠一の大きな史観、ハーマンズ・ハーミッツの脳天気さ、アズテック・カメラの青さ、渋谷系の節操のなさ、スチャダラパーの“それってどうなの?”的視点を糧に、音楽/映画/オーディオビジュアル/ライフスタイル/書籍にまつわる記事を日々専門誌やウェブサイトに寄稿している。1973年生まれ。名古屋在住。
【関連記事】
・『日々ロック』公開特集!『劇場版 神聖かまってちゃん ロックンロールは鳴り止まないっ』に見る入江悠監督の底力
・入江悠監督が『SR』シリーズで与えた衝撃
・オープニングからグッとくる、壮大でエモーショナルなクリストファー・ノーラン監督最新作
・夭逝した天才ミュージシャン父子を圧倒的な音楽力で描いた傑作/前編作
PICKUP
MOVIE
INTERVIEW
PRESENT
-
ダイアン・キートン主演『アーサーズ・ウイスキー』一般試写会に10組20名様をご招待!
応募締め切り: 2025.01.04 -
齊藤工のサイン入りチェキを1名様にプレゼント!/『大きな家』
応募締め切り: 2024.12.27