ダメ男と迷子のロボットの旅を描いた冒険ファンタジー
【週末シネマ】二宮和也が主演する『TANG タング』は、妻から家を追い出されたダメ男と迷子のポンコツロボットが旅する数日間を描く冒険ファンタジー映画だ。2016年のベルリン国際映画祭で「映画化したい一冊」に選ばれた、イギリスの小説「ロボット・イン・ザ・ガーデン」(デボラ・インストール著)を、近未来の日本を舞台に映画化している。
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二宮が演じる主人公の春日井健は、ある理由から無職で家にこもり、ゲームばかりして過ごしている。満島ひかりが演じる妻の絵美は弁護士として働き、無気力な日々を送る夫にもどかしさを感じている。そんなある日、家の裏庭に「タング」と名乗る以外は何の記憶もない古ぼけたロボットが現れる。時を同じくして、絵美は夫の不甲斐なさに痺れを切らし、健を家から追い出す。こうしてタングを相棒とする健の旅が始まったが、それは予想もしなかった冒険の幕開けでもあった。
80~90年代のハリウッド映画を思わせる作風
監督の三木孝浩は『陽だまりの彼女』や『今夜、世界からこの恋が消えても』など青春恋愛映画のヒットメイカーであると同時に、『夏への扉 -キミのいる未来へ-』(21年)でも近未来を舞台にした翻訳小説の映画化作を手がけている。『夏への扉~』もだが、本作でより顕著なのが、1980~90年代のハリウッド映画の影響だ。冒頭、健たちの暮らす街の様子はティム・バートン監督の『シザーハンズ』を思わせ、健と絵美の住まいも当時のアメリカ家庭の風景に似ている。健とタングの関係性は、思惑ありで連れ出した相手に振り回される『レインマン』のトム・クルーズとダスティン・ホフマンのようだ。
健とタングが行く先々で出会う人々をはじめ、脇を固める登場人物像はわかりやすく、ハリウッドの娯楽作然とした描き方だ。市川実日子、小手伸也、奈緒、京本大我(SixTONES)、お笑いコンビ「かまいたち」の山内健司と濱家隆一、そして武田鉄矢という芸達者なキャストが、輪郭のはっきりしたキャラクターを見事に演じている。
日本語の芝居をハリウッド風に演じるという高いハードルをクリア
その中心で、観客が感情移入できるリアルさとポップな存在感を絶妙に共存させているのが、二宮和也と満島ひかりだ。夏休みのファミリー映画でありつつも、健と絵美が向き合う葛藤には三木監督作品らしいドラマを感じさせる。そして二宮と満島がジャパン・プレミアの席で言及した通り、画面に映る2人の“アイドル力”は格別だ。親しみやすさとキラキラの配合は完ぺきで、日本語の芝居をハリウッド映画風に演じるという、実は高いハードルを軽々とクリアしている。ここに違和感があっては、この映画は成立しなかったのではないか。
タングの造形、言動の愛らしさも見どころだ。ダメ男とポンコツロボットが珍道中を繰り広げながら、そこに微笑ましい関係が築かれていく。幼い子どものようなタングと過ごした健の内なる変化、それも微かだが確実な変化を、二宮はきめ細かく見せる。CGを駆使したポップでカラフルな映像と、琴線に触れるドラマが両立するエンターテインメントだ。(文:冨永由紀/映画ライター)
『TANG タング』は、2022年8月11日より公開中。
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