「映画好き」と言われれば言われるほど、聞きづらくなるのが映画の一般常識。理解しているようでいて実はよく知らない。こっそり訊ねたら「そんなこと知らないの?」と呆れられそう。本コラムでは話題の映画ブルーレイを題材にしながら、いまさら聞けない映画の一般常識や用語についてお話していこう。
●今回のお題「レターボックス」
スタンダード。ビスタサイズ。シネマスコープ(シネスコ)サイズ。ここまで映画の歴史を彩って来た画面サイズの話をしてきたが、ビスタやシネスコといった横長画面サイズ作品は「LB」と表記される場合がある。これは「レターボックス」(「LETTERBOX」)の略号であり、DVDのバックカバーにある表示を思い出す人も多いはずだ。
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「LB」の表示はDVDが同梱されたブルーレイでも目にすることができる。近作ではアンジェリーナ・ジョリー主演作『マレフィセント』のブルーレイ・バックカバーに、「DVD映像/16:9/LB/シネスコサイズ」というように記載されていたことが記憶に新しい。
また、NHK(BSプレミアム等)でハイビジョン放送されるビスタやシネスコサイズの映画は、録画したタイトル表示の末尾に「レターボックス」とだけ表記される。パッケージソフトやハイビジョン放送で見かける「レターボックス」という名称だが、その起源や意味を正しく説明できる人は意外と少ない。
ビスタやシネスコの映画ソフトや放送を、画面サイズ「16:9」、かつての「4:3」のテレビで見ると上下に黒い帯が入る。その形状が便箋を折った形、封筒の形、郵便箱の投函口に似ていることによる呼称。呼び名の起源は間違いではないが、「レターボックス」という名称が家庭用ビデオ登場以降(70年代後半)のテレビ時代の産物というのは間違いだ。
また、4:3の画面サイズにビスタやシネスコサイズの映像をそのまま収録したDVDも「レターボックス版」と呼ばれる(収録された縦長の映像を再生時に横に引き延ばすスクイーズ版と区別され、画面の縦方向の垂直解像度も少ない)。ここでの「レターボックス」の使用法は、本来の意味から遠ざかっている。
初めて「レターボックス」と呼んだのは、50年代の映画スタジオ関係者であるというのが定説。映画を押しまくっていたテレビ放送はすべてスタンダードサイズ(4:3)であったが、映画はテレビに対抗するワイドスクリーン時代に突入していた。この時代、スタンダードサイズよりも横に長い上映作品を「レターボックス」と呼んでいた時期があり(とりわけパラマウント開発のビスタビジョン)、その呼称が今に継承されているのである。試写室や映画館で上映された映像が、前述のように封筒や郵便箱の投函口に似ていたのは言うまでもない。
「レターボックス」は(テレビのような)与えられたフレームのなかに横長映像を収めた時の印象から想を得た名称ではないが、「テレビ時代の産物」という点で言えば以下のような文献に注目したい。かつて現像所スタッフや編集スタッフが、「レター・ボクシング」という言葉を使っていたという。たとえば1.85:1のビスタサイズ映像を得るため上映フィルムをプリントする際に(または撮影、編集時に)、画面の上下に黒味のマスクをかけた経緯からだ(連載第2話参照)。
またシネマスコープ作品を正式上映できない環境、つまり横長大スクリーンを設備していない映画館が、苦肉の策として上映時にスクリーン上下を黒幕でマスキングした際にも「レター・ボクシング」という言葉は使われていたようだ。上映設備が整った現在では、(一部の映画技術者を除いて)映画上映作品を「レターボックス」と呼ぶことはないが…。
さて前述の極上シネスコ作品『マレフィセント』の話に戻ろう。ブルーレイ・スペック表記には「LB」の文字はないが、本作を16:9画面サイズのハイビジョンテレビやプロジェクターで再生する限り、上下に黒味を有する「レターボックス」映像となる。これはビスタサイズ作品においても同様だ。現在では「レターボックス」という名称を、上下に黒い帯が入った再生映像の総称として理解されていてもいいと思う。ただし、第2〜3話に記した映画の画面サイズ史をいまいちど理解されて、「レターボックス」という名称を胸に刻んでいただきたい。
さて次回。「レターボックス」は理解したけど、こんなに高精細なBD『マレフィセント』なのに、上下に黒い帯があって映像が小さく映るのは許せない……そんな人のためのお題「視野角」をお届けしたい。(文:堀切日出晴/オーディオ・ビジュアル評論家、オーディオ・ビジュアル・ライター)
次回のテーマ「レターボックス」は2月6日に掲載予定です。
堀切日出晴(ほりきり・ひではる)
これまでに購入した映画ディスクの総額は軽く億を超えることから、通称は「映画番長」。映画助監督という作り手としての経歴を持ち、映画作品の本質を見抜くには、AV機器を使いこなすこと、ソフトのクォリティにも目配りすることを説く。
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