(…前編より続く)コンサートマスター(コンマス)というのは通常、第一ヴァイオリン奏者が担当することが多く、言ってみれば“アウェイ”の指揮者と“身内”の楽団の間を取り持つという重要な役割。この『マエストロ!』では、演奏シーンがとても自然で、“役者が楽器を持たされている”と感じさせないところが見どころのひとつだったりするのだが、特に主役の松坂桃李はコンマスという役柄上、集中的にヴァイオリンのレッスンを受けたようだ。実際の演奏シーンでも、ボウイング(弓さばき)のタイミングが演奏にぴったりシンクロし、いかにも早熟な天才ヴァイオリニスト/コンマスというオーラを醸し出している。
・オーケストラならではの人間模様や小ネタが満載! miwaの初演技にも驚かされる『マエストロ!』/前編
シンガー・ソングライター、miwaの映画初出演も本作の話題になっているが、以前から演技経験があったのではないかと思わせるくらい自然に、劇中の役割をこなしている。ミュージシャンということもあって担当楽器のフルートの習得は早く、その上これまでしゃべったことがなかったという関西弁をほぼ完全にモノにしているのだから凄い。
ちなみに本作では、楽団員を演じている役者陣は多かれ少なかれ音楽の素養がある人が多く選ばれている。元モダンチョキチョキズの濱田マリ、ラジオDJ/寺内タケシとバニーズのギタリストとして知られる大石吾朗、宮藤官九郎や阿部サダヲとグループ魂として活動する村杉蝉之介、舞台でもギターの弾き語りを披露しているモロ師岡、ピアノ調律師の経験があるという嶋田久作などなど。そんな面子が揃ったからこそ、音楽ファン/クラシックファンが見てもカユいところに手の届くようなディティールが楽しめる作品になったのは間違いない。
謎のマエストロ、天道徹三郎を演じる西田敏行に関しては、個人的にはその役柄の風貌からして見る前からお腹いっぱいな印象だったのだが、実際に見るともう、さすがとしか言いようのない存在感。日本映画がこの人を珍重する理由が改めて理解できる。おいしいところを全部掻っ攫っていく感じは、三谷幸喜監督の『ザ・マジックアワー』あたりと同様だ。
本作の音楽全般を取り仕切ったのは、最近では『ゼロの焦点』や『ヘルタースケルター』といった作品を手がけている上野耕路。オーケストラの演奏シーンのプレスコアリングはもちろん劇伴も手がけており、劇中ではオーケストラでは使われないマリンバなどによる印象的なサウンドを聴くことができる。
クラシック音楽好きの人なら手放しに楽しめる映画であることは間違いないが、クラシックには馴染みがない人でも、オーケストラの人間模様を自分の身の周りに照らし合わせて見ると、感じ入るところが多いはず。ぜひたくさんの人に見てほしい音楽映画の新しい傑作だ。(文:伊藤隆剛/ライター)
『マエストロ!』は1月31日より公開中。
伊藤 隆剛(いとう りゅうごう)
ライター時々エディター。出版社、広告制作会社を経て、2013年よりフリー。ボブ・ディランの饒舌さ、モータウンの品質安定ぶり、ジョージ・ハリスンの趣味性、モーズ・アリソンの脱力加減、細野晴臣の来る者を拒まない寛容さ、大瀧詠一の大きな史観、ハーマンズ・ハーミッツの脳天気さ、アズテック・カメラの青さ、渋谷系の節操のなさ、スチャダラパーの“それってどうなの?”的視点を糧に、音楽/映画/オーディオビジュアル/ライフスタイル/書籍にまつわる記事を日々専門誌やウェブサイトに寄稿している。1973年生まれ。名古屋在住。
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