「映画好き」と言われれば言われるほど、聞きづらくなるのが映画の一般常識。理解しているようでいて実はよく知らない。こっそり訊ねたら「そんなこと知らないの?」と呆れられそう。本コラムでは話題の映画ブルーレイを題材にしながら、いまさら聞けない映画の一般常識や用語についてお話していこう。
●今回のお題「視野角」
テレビの台頭に対しハリウッドが講じた対抗策のひとつが、横長画面サイズを有するシネマスコープ(シネスコ)方式の開発であったことは、これまでにも述べてきた。大画面でなければ堪能できぬ、スケールの豊かな娯楽大作。その結果、映画の新旧の大作や話題作は、シネスコ作品が多くを占める。
・【超簡単! いまさら人に聞けない映像用語辞典 4】レターボックス/『マレフィセント』もレターボックス作品!
しかし、画面サイズ16:9(=1.78:1)アスペクトのテレビやスクリーンにシネスコ映像を映す場合、上下に余白部(黒味)を有するレターボックスとして表示されてしまう。この縮小感に対するストレスは、とても大きい。
その解消法がひとつある。思い出してもらいたいのは映画館の上映方式。通常の映画館では最大上映サイズをシネスコサイズとし、その画角の内側にビスタサイズ(1.85:1、1.66:1)、スタンダードサイズ(1.33:1、1.37:1)を映し出す。つまり画面の高さは同じで、映し出される映像の横方向のサイズを可変させるという考え方だ。16:9ハイビジョンサイズを基準とするホームシアターでは、この上映方式を逆手にとればよい。
そもそもシネスコサイズという縦と横の構図は、人間の知覚の再現にもっとも近いものである。あなたが駅前の交差点に立ったとしよう。そこで真っ直ぐ前を向いて、目を動かさずにいても、あなたは周辺視野に多くのものを認知することができるはずだ。
しかし実際にはあなたは、視野角「左右」約40度、「上下」15〜20度ほどの範囲でしか被写体を認識していない。人によって若干の誤差はあるが、それが人間の頭脳の理解できる範囲なのである。その視野角外にある被写体は、眼を動かすか首を振るかによってのみ認識できるのである。また被写体との距離が近くても離れていても、この数字は変わらない。そしてその視界認識の画面サイズこそが、シネスコサイズとリンクするのである。
「VEW ANGLE」「FIELD OF VIEW」と表記される視野角とは、被写体を正常に認識できる値。テレビやスクリーンでの鑑賞で言えば、画面中心から映像を正常に見ることのできる範囲を、二等辺三角形で表した時の中心角の大きさが視野角である。視野角には「左右」と「上下」のがあるが、前述した解決法はこの視野角を利用するのである。
視野の広い「左右」の視野角を基準とし、画面の左右を視野角「左右」40度に無理なく収めて鑑賞してみよう。「上下」の視野角を超えるビスタサイズ映像はより臨場感を増し、シネスコ映像は人の知覚と容易にリンクして別次元の映画鑑賞を約束してくれるであろう。
それではホームシアターにおいて、画面からの視聴距離はどのくらいになるのであろう。その算出は簡単。視聴位置を頂点、画面の横幅を底辺とした二等辺三角形を設定。頂角が40度の二等辺三角形の高さ(=視聴距離)を計算すればよい。すなわち、視聴距離=底辺(画面の横幅)÷2÷Tan(視野角=頂角÷2)となるのだが、関数計算が面倒という方は、視野角40度の視聴距離=画面の高さ×(約)2.4と憶えておいておけばよかろう。
これに準ずると、たとえば100インチ・スクリーン鑑賞ならば、視聴位置は約3mの位置となる。しかし『アバター』の3Dディレクターのヴィンセント・ペースや、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』の監督ジェームズ・ガンなどは、「大画面ホームシアターではスクリーンの高さの2倍(=2H)の位置での鑑賞を推奨する」と語っている。
すると100インチ鑑賞ならば2.5mの視聴距離となり、視野角は約48度となる。『ガーディアンズ〜』の3D版は、シネスコ・パートとIMAXパート(1.78:1)が混在するハイブリット仕様。これが視野角と大きくリンクして、「変化するアスペクト比もストーリーテリングの一部」と語る監督の狙い生きてくるのだ。
上下に対しては狭くが、左右に対しては広い視野角。その特性を利用し、高精細なIMAXショットによる臨場感をより高めようという狙いである。しかし55インチ・テレビで鑑賞するとなると、人の近くに準ずる視野角40度では視聴距離1m66cm、監督推奨の48度なら1m36cmという超近視聴となってしまう。ここでクローズアップされてくるのは、「4K」というキー・ワード。その「4K」の話は次回。(文:堀切日出晴/オーディオ・ビジュアル評論家、オーディオ・ビジュアル・ライター)
次回のテーマ「4K」は2月20日に掲載予定です。
堀切日出晴(ほりきり・ひではる)
これまでに購入した映画ディスクの総額は軽く億を超えることから、通称は「映画番長」。映画助監督という作り手としての経歴を持ち、映画作品の本質を見抜くには、AV機器を使いこなすこと、ソフトのクォリティにも目配りすることを説く。
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