2月22日(日本時間23日)に授賞式が迫っている第87回アカデミー賞。ノミネート数を見ると、最多9部門が『グランド・ブダペスト・ホテル』と『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』、次いで8部門が『イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密』。アカデミー賞の過去10年間の作品賞受賞を見ると、最多ノミネート作品が4回、次ぐ作品が5回受賞している。この3作が最有力だ。
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最有力3作の配給会社を見ると、『グランド・ブダペスト・ホテル』と『バードマン』がフォックス・サーチライト、『イミテーション・ゲーム』がワインスタイン・カンパニー。どちらもアカデミー賞の常連だ。
フォックス・サーチライトは20世紀フォックス傘下のインディーズ映画部門。大手スタジオのワーナー・ブラザースやパラマウントが数年前にインディーズ映画部門を閉鎖したのとは対照的に、年に10本前後を公開している。1994年に設立された同社は、インディーズ映画を自社で企画・製作したり、プロダクションが製作した作品を買い付けている。近年のアカデミー賞では2009年に『スラムドッグ&ミリオネア』、14年に『それでも夜は明ける』で作品賞に輝いている。
ワインスタイン・カンパニーは、“アカデミー賞の賞取り屋” ハーヴェイ・ワインスタインが設立した会社だ。彼は1979年にミラマックスを設立して、90年から毎年のようにアカデミー作品賞にノミネート。『イングリッシュ・ペイシェント』『恋におちたシェイクスピア』『シカゴ』と3度作品賞に輝いている(『ノーカントリー』もミラマックスだが、彼が同社を去ってからの受賞)。2005年にワインスタイン・カンパニーを設立してからも作品賞候補を出し続け、11年に『英国王のスピーチ』、12年に『アーティスト』で作品賞を受賞した。
アカデミー賞を狙ったキャンペーンを生み出したのがワインスタイン氏だ。映画関係者が購読している業界紙に頻繁に有力作品の広告を打ったり、ロサンゼルスやニューヨークなどアカデミー会員が多く暮らす地域でテレビCMを大量に投下。また会員向けに試写会を行ったり、「スクリーナー」と呼ばれる作品のDVDを会員に大量に配布してPRにあたる。特にその効果は、98年に作品賞の本命と言われていた『プライベート・ライアン』を打ち負かし、『恋におちたシェイクスピア』で作品賞を取った時に最も表れたといわれる。
アカデミー賞を狙った配給戦略にも長けており、『イミテーション・ゲーム』の戦略はずばり的中している。昨年9月のトロント国際映画祭に出品して観客賞を受賞。近年は受賞した『スラムドッグ$ミリオネア』『英国王のスピーチ』『それでも夜は明ける』がアカデミー作品賞に輝いており、まず注目を集めた。11月28日から4館で公開。その後、20〜30館で上映後、12月26日から約750館に増やして口コミで評判を広げる。そのかいあって、アカデミー賞ノミネートでは、作品、監督、主演男優など8部門で候補となった。ノミネート直前の1月9日から1600館に拡大して上映している。
実はこの配給戦略で今年の「賞レースの台風の目」となっているのが『アメリカン・スナイパー』だ。配給会社はワーナー・ブラザース。近年アカデミー賞でインディペンデントが強いなか、唯一メジャースタジオでノミネートされた。13年には『アルゴ』で作品賞を受賞している。
同作は12月26日にわずか4館で公開。その後もアカデミー賞ノミネートまで4館で続け、ノミネート直後の1月16日に3555館に拡大して上映。3日間で興収8950万ドルをあげ、1月公開作のオープニング興行収入歴代新記録を樹立した。作品賞候補作8本のうち、ヒットの目安となる興収1億ドルを超えているのは『アメリカン・スナイパー』しかない。近年のアカデミー賞候補作は(秀作ではあるが)一般観客の関心度が低くヒットしていない作品が多く、授賞式の視聴率に影響しているといわれる。アカデミー会員はどんな投票行動を見せるだろうか。(文:相良智弘/フリーライター)
相良智弘(さがら・ともひろ)
日経BP社、カルチュア・コンビニエンス・クラブを経て、1997年の創刊時より「日経エンタテインメント!」の映画担当に。2010年からフリー。
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