(…中編より続く)深夜のお茶の間で筆者を爆笑させ、動揺させ、夢中にさせる。それが、テレビ東京系で放送中の『山田孝之の東京都北区赤羽』だ。映画監督である山下敦弘監督の作品『己斬り』の撮影中に、役と自己を切り離すことができなくなって苦悩する俳優・山田孝之が実録お笑い漫画の「ウヒョッ!東京都北区赤羽」に感銘を受け、赤羽に移り住む“ドキュメンタリードラマ”ということである。迷走する山田と彼にいいように振り回される山下監督の悲喜劇には笑うほかない。
純粋過ぎる山田の言動にはマジか!?と笑わされる。しかし、本当にどこまで真実なんだろう? 山田に呼び出され、記録してほしいと言われた山下監督がカメラに収め、撮影後にドキュメンタリー映画『あんにょんキムチ』の監督や「TV Bros.」のコラム「松江の押し入れ」で知られる松江哲明が加わり、「2時間前後の映画にまとめてしまうのはもったいないから」と全12話のテレビシリーズという形になったそうだ。確かに映画という形式でこの作品に出会ったら、言わばよくあるフェイクドキュメンタリーとして冷静に「面白いなぁ」で終わったかもしれない。しかし、ネット番組やCSでもなく、テレビ東京とはいえ(失礼!)地上波のテレビシリーズとして何気なくお茶の間でこの作品に不意に出会ってしまったものだから、ドキドキと心拍数は上がり、どこまで虚構でどこまで真実なのか!?と虜になってしまう。
騙されないぞと疑いの目で見ると、山下監督のおろおろっぷりもわざとらしい気がする。山下監督と言えば2014年12月に公開された『超能力研究部の3人』の劇中メイキングシーンはフェイクドキュメンタリーだし。番組内ではこれ見よがしに傑作ドキュメンタリー『ゆきゆきて神軍』のDVDを登場させるが、棚には俳優ホアキン・フェニックスが仕掛けたフェイクドキュメンタリーの『容疑者、ホアキン・フェニックス』のDVDもしれっと並んでいたりする。放送ラストのおまけ映像もネタバラシの臭いが。だいたい、「自己とは?」と苦悩するきっかけの作品が『己斬り』だなんて出来過ぎじゃないか?
それでも真実じゃないかと期待したくなってしまうのは、苦悩して暴走するのが山田孝之だからだ。これが、たとえば濱田岳あたりなら「ない、ない、ない!」と一笑に伏して終わることができるのだが。いや、申し訳ない、なんの根拠もない筆者のイメージだ。
山田孝之という俳優を認識したのはおそらくNHK連続テレビ小説『ちゅらさん』の姉思いの弟・恵達役だ。ツルンとした肌のまっすぐな瞳の好青年だったが、今や『闇金ウシジマくん』の印象が強い。昨夏、テレビシリーズの『WATER BOYS』の再放送を見かけ、若かりし好青年な山田孝之にぷぷっ!と思ったほどだ。それほど役柄イメージは昔と今では180度違うが、俳優としての彼は仕事に対しては真面目というか、言うならば役者バカなイメージは変わらない。隠し子騒動でも当時、俳優の仕事を優先するからこそ結婚を選ばなかったと言っていたように記憶している。以前、取材したときも、真面目で内向的で真正面から役に取り組むタイプだった。そんな山田孝之だから、苦悩し過ぎてヤバい状態になるのもあり得るかもと思ってしまう。
そういや、山田孝之はFacebookの投稿もときどき話題となる。『己斬り』の問題シーンが撮影されたという2014年6月9日近辺はいったいどんな情緒不安定な投稿がされていたのか?と気になって見てみると、あった、あった、どんぴしゃで前日の2014年6月8日の投稿が。なんとネットニュースでも話題となった、暗闇でヒゲ面にサイリュウムの光が異様さを際立たせる「生涯優子推し」の投稿だ。大島優子卒業公演を見に行ったであろう、堂々たるヲタ姿のやつじゃないか! ある意味、情緒不安定? いや、でも、そんな風には見えない。となると、やっぱり番組はフェイクドキュメンタリーなんだろうか。いや、でも、山田孝之なら、あれはあれ、これはこれです、とキリッと真面目に言い切りそうな気もする。どこまで真実なのか、虚構なのか、虚構ならなぜこれを作るに至ったのか、気になって仕方ない。それでも、翻弄されるのが逆に気持ちいいぐらい、この番組には吸引力がある。さて、この先、どんな風に見る側を翻弄してくれるのか、ますます楽しみだ。
ただ、真実だと期待したくなるといったが、本当のところ本心は「そう乗せられておいて、はめられた〜!」と悔しがりたい。どうせなら『鎌田行進曲』ぐらい、陽気で派手にネタバラシをやってほしい。だって、これがガチなら、俳優とは、少なくとも山田孝之という俳優は、途方もなく辛すぎるじゃないか!(文:入江奈々/ライター)
・山田孝之に翻弄される週末(前編)/役どころだから自害するってマジ!?
・山田孝之に翻弄される週末(中編)/痛々しい姿には笑いと動揺が
『山田孝之の東京都北区赤羽』はテレビ東京ほかにて放映中。
入江奈々(いりえ・なな)
1968年5月12日生まれ。兵庫県神戸市出身。都内録音スタジオの映像制作部にて演出助手を経験したのち、出版業界に転身。レンタルビデオ業界誌編集部を経て、フリーランスのライター兼編集者に。さまざまな雑誌や書籍、Webサイトに携わり、映画をメインに幅広い分野で活躍中。
【関連記事】
・『妖怪ウォッチ』人気はいつまで続く?『ポケモン』との違いは?
・原作の凄さはいずこへ? 上滑りして感情移入できない凡作『寄生獣』・父・ジョージ秋山の原作マンガを映画化した秋山命が語る、父への思い
PICKUP
MOVIE
INTERVIEW
PRESENT
-
ダイアン・キートン主演『アーサーズ・ウイスキー』一般試写会に10組20名様をご招待!
応募締め切り: 2025.01.04 -
齊藤工のサイン入りチェキを1名様にプレゼント!/『大きな家』
応募締め切り: 2024.12.27