キャラクターが不思議なほどももクロにピッタリ
(…前編より続く)劇作家であり劇団・青年団を主宰する平田オリザが2012年に発表した処女小説を、ももいろクローバーZ主演で映画化した『幕が上がる』。全国大会出場を目標に地区大会、県大会を目指す、地方都市の弱小演劇部に所属する女子高生たちの成長を描いたド直球な青春映画だ。
・ももクロが本意気で勝負! 珍しいほどド直球な青春映画『幕が上がる』(前編)
登場人物も原作通りでありつつ、本広克行監督(『踊る大捜査線』シリーズ)も言っているように、ももクロメンバーのイメージと面白いほどピッタリ合っている。なんとなく流れで部長になってしまったもののやがてはリーダーシップを発揮するというさおり役を演じるのは、ももクロで責任感を持たせるためにリーダーに昇格したといわれるイメージカラー赤色の百田夏菜子だ。
演劇部の看板女優でさおりと大の仲良しのユッコ役は黄色の玉井詩織が演じている。2人が胸の内を語るシーンを映画版ではシングルベッドで繰り広げ、仲の良い百田と玉井のイチャつきを楽曲にした“ももたまい”ユニットの「シングルベッドはせまいのです☆」をそのまま再現しつつ、原作にも映画の雰囲気にも合っているのは奇跡的だ。
おかしなダンスが得意のお調子者・がるる役には、ももクロの色物担当である紫色の高城れに。ちなみにももクロではこの3人が今も残っている初期メンであり、後輩だけどしっかり者の明美ちゃん役は、ももクロにはひと足遅れで加入したももクロ最年少でやはりしっかり者のピンク色の佐々木彩夏が演じている。
そして、演劇エリート校からのワケアリ転入生で他の部員とは距離感のあるストイックな中西さん役は、ももクロに最後に加入した、根が真面目で頑張り屋の緑色の有安杏果が演じている。中西さんは物語のキーパーソンで、ももクロの中で若干浮いているように感じることもある有安はハマリ役だ。どの役も、ももクロのために個性を合わせたように見えるが、もともとの原作のキャラクターが不思議なほどに重なっているのだ。
そしてももクロも、それに応えるように等身大の悩める少女たちを驚くほどの演技力で好演。もともとは多くの俳優を抱える芸能プロダクションであるスターダストプロモーションに所属するももクロは以前より演技も達者で、今回は原作者で演劇人の平田オリザのワークショップも受けたとか。
平田オリザと言えば、20年ほど前、友人の知り合いが平田オリザの主宰する劇団・青年団の劇団員だったこともあり、こまばアゴラ劇場には何度となく見に行った時期があった。ちなみに看板役者のひとり、バーコードはげがチャームポイントである『三匹のおっさん』シリーズの志賀廣太郎はその頃もいまとまったく変わらないオヤジで、今作でも国語科の滝田先生役をいい声で演じている。
平田オリザは“現代口語演劇理論”を提唱し、今はなんだかその筋では教祖様みたいな扱いになってるが、要するに日本の近代演劇にリアリティを持ち込んだ第一人者と言っていいだろう。それまでの小劇場の演劇に多かった“絶叫系”に対して、日常的なトーンのリアルな会話劇を展開する“静か系”というわけだ。確かに青年団の演劇は本当にリアルだった。会話のやりとりがかみ合っていなかったり、相手のセリフが終わらないうちに話し始めたり、話が逸れて話題が変わってしまったり、1つのグループで同じ話題を話していたのに興味のなくなった人たちが同時進行で違う話題を話し始めたり、といった具合だ。演劇じゃなく、映画でよくない?とも思ったが。
今回も、ももクロはかなりのリアリティを求められたことだろう。ただ、そこは『踊る大捜査線』シリーズの本広克行監督、広く受け入れられやすいようにリアルを追及し過ぎず、一般的な映画文法に乗っ取って進み、相手のセリフが終わらないうちに話し始める人もいなければ、違う話題が同時進行したりはしない。脚本も、『桐島、部活やめるってよ』で、原作では映画ヲタクの前田が岩井俊二監督好きだったのをゾンビ映画の巨匠ジョージ・A・ロメロ監督好きという設定に変更するという偉業を成し遂げた喜安浩平が手がけ、原作よりもずっと一般的に受け入れられやすくなっている。(後編に続く…)(文:入江奈々/ライター)
『幕が上がる』は2月28日より全国公開される。
入江奈々(いりえ・なな)
1968年5月12日生まれ。兵庫県神戸市出身。都内録音スタジオの映像制作部にて演出助手を経験したのち、出版業界に転身。レンタルビデオ業界誌編集部を経て、フリーランスのライター兼編集者に。さまざまな雑誌や書籍、Webサイトに携わり、映画をメインに幅広い分野で活躍中。
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