昨年、マシュー・マコノヒーがアカデミー賞主演男優賞を受賞した『ダラス・バイヤーズクラブ』のジャン=マルク・ヴァレ監督が2011年に撮った『カフェ・ド・フロール』が、ようやく日本公開される。フランスでの公開後しばらくして、パートナーだったジョニー・デップと破局を発表したヴァネッサ・パラディの主演作だ。
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2つの物語が並行して描かれる。現代のカナダ・フランス語圏で、美しい恋人と娘2人と幸せに暮らすDJのアントワーヌと、1969年のパリでダウン症の息子と暮らす美容師でシングルマザーのジャクリーヌ。何の関わりもない彼らをつなぐ鍵があるとすれば、それはマシュー・ハーバーとの名曲「カフェ・ド・フロール」だ。
慎ましく暮らしながら、息子・ローランにありったけの愛情を注ぐジャクリーヌをヴァネッサ・パラディが演じている。アドリブも多かったという母と息子のシーンは、役者同士の感情のやり取りがとても素直で、リアリティがある。クラスメートとの初恋で見せるローランの純粋な情熱、気持ちの強さを演じ切ったマラン・ゲリエの力演も見逃せない。
アントワーヌの物語は時間を遡る形で描かれ、次第に彼を取り巻く状況が見えてくる。アントワーヌと娘2人の母親である妻の関係が、現実のヴァネッサとジョニーの関係とオーバーラップするのは奇妙な偶然だ。
深く愛し合っていたはずなのに気持ちが離れてしまったカップルを描く作品は数多い。時制を遡る手法で描くものなら、ライアン・ゴズリングとミシェル・ウィリアムズ共演の『ブルーバレンタイン』やフランソワ・オゾン監督の『ふたりの5つの分かれ路』などがある。
互いをソウルメイトと信じ、若い頃からずっと一緒だったのに、切っても切れない絆で結ばれていたはずなのに、なぜ添い遂げられないのか? その理由という領域まで踏み込んだのが本作だ。ここでは、ちょっと驚くような、屁理屈を通り越したスピリチュアルな説明がなされる。そうきたか、と椅子から転げ落ちそうになった。誰かを伴侶とすること、親であること、子であること。関係の中で相手に何を求めるのか、その男女差が見えたような気がした。ただ、アイディアは浮かんだものの、それを導き出す工夫がもう1つ足りなくて、唐突な印象が残る。
しかし驚いた。禁じ手すれすれのセオリーで、愛を解釈する奇作と呼びたい1本だ。(文:冨永由紀/映画ライター)
『カフェ・ド・フロール』は3月28日より公開中。
冨永由紀(とみなが・ゆき)
幼少期を東京とパリで過ごし、日本の大学卒業後はパリに留学。毎日映画を見て過ごす。帰国後、映画雑誌編集部を経てフリーに。雑誌「婦人画報」「FLIX」、Web媒体などでレビュー、インタビューを執筆。好きな映画や俳優がしょっちゅう変わる浮気性。
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