9月9日は男色の日。この日は陰陽思想の「重陽の節句」であり、旧暦では菊が咲く季節であることから「菊の節句」とも呼ばれる。『江戸男色 細見菊の園』という平賀源内の著作があるように菊は隠喩的な男色の象徴であることから、この記念日が生まれたようだ。今回は、江戸時代を舞台とした和風男色映画を2本ご紹介する。
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ヤク断ち祈願のお伊勢参り! ゲイカップルのぶっ飛び珍道中
最初にご紹介するのは、クドカンワールド全開!の『真夜中の弥次さん喜多さん』である。『東海道中膝栗毛』に着想を得た、しりあがり寿による漫画が原作で、宮藤官九郎の初映画監督作品でもある。弥二さん(長瀬智也)と喜多さん(中村七之助)は江戸で同棲中のゲイカップルで、しかも喜多さんはヤク中という設定だ。2人は、喜多さんが薬を断って健全な生活を送れるよう願かけをするべくお伊勢参りに出発するのだが、その道中の宿場には、清水の次郎長の追っかけギャル集団や歌って踊れるトランスジェンダーのお茶屋の主人など、現代臭バリバリの珍奇なキャラクター達が次々と待ち構えている。笑いやミュージカルを織り交ぜながら、江戸時代と現代、現実とヤク中の幻覚、果てはこの世とあの世さえ行ったり来たりしながら、なんでもありのハチャメチャで楽しい展開を見せていく。仲睦まじく手をつないでお伊勢さんを目指す、ゲイの弥次喜多カップルの珍道中をぜひお楽しみいただきたい。
クドカン作品常連の阿部サダヲ、荒川良々、古田新太らが期待を裏切らない濃いキャラクターで出てくると、「待ってました!」とばかりにテンションが上がる“お約束”的側面も楽しい。裏主役は荒川良々ではないかと思うほどの、存在感ある彼の役どころにもご注目!
15歳の松田龍平演じる少年剣士が、男たちの情欲と嫉妬を掻き立てる
続いてご紹介するのは、大島渚監督の『御法度』だ。新選組を題材に、隊内のあちこちで密かに育まれている男同士の恋愛を、カメラを通して間接的に静観するような作品である。あからさまな性描写などはほとんどないが、それぞれの言葉尻や会話の間合い、目つきなどから明らかに隊内に男色が「存在している」ことを淡々と匂わせていく魅せ方が上手い。そして、坂本龍一の音楽が耳に心地良く映像も美しい。
男たちの恋愛模様で核になるのが、本作でデビューを果たした当時15歳の松田龍平演じる美少年剣士である。その妖艶で神秘的なまなざしは多くの古参隊士の心を捉えてかき乱し、言い寄るものも少なくない。「確実に○○とできている」「□□も言い寄っているらしい」などの噂が絶えず、常に注目の存在だ。松田龍平が醸し出す独特でミステリアスな雰囲気は、やはり恵まれたDNAの賜物であろう。新人ゆえの若干大根気味でたどたどしい台詞回しが、逆に役の初々しさとうまくリンクして功を奏しているようだ。その証拠に、彼はこの作品で各種新人賞を総ナメにしている。撮影当時は、殺陣の稽古に遅れて道場の先生に土下座をさせられムカついたとか、途中で大島渚監督に「やりたくないからやめたい」と直訴したとか(翌日から急に監督がやさしくなったそうだ)、子どもらしい生意気なエピソードもあったようだが、彼なしには作品が成り立たなかったのでは? と思えるほどのハマリ役であることは間違いない。(T)
[訂正のお知らせ]
本文を2か所、以下のように訂正をいたしました。
訂正前:『東海道中膝栗毛』に着想を得ており、宮藤官九郎の初映画監督作品でもある。
訂正後:『東海道中膝栗毛』に着想を得た、しりあがり寿による漫画が原作で、宮藤官九郎の初映画監督作品でもある。
訂正前:しかも喜多さんはヤク中という設定からしてクドカンらしい。
訂正後:しかも喜多さんはヤク中という設定だ。
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