今日から公開される『JIMI:栄光への軌跡』は、あのジミ・ヘンドリックスの伝記映画として、2013年にイギリスで制作されたもの。たとえ60年代のロックに通じていなくても、“ジミヘン”の愛称や、ギターを歯で弾いたり火を放ったりするド派手なステージパフォーマンスなら知っているという人は多いだろう。
・[動画]ジミヘンの真実に迫る『JIMI:栄光への軌跡』予告編
そのギタリストとしての圧倒的な技量とジャンルを超えて音楽を折衷させるセンス、そして一度見たら忘れられないワイルドでセクシーな風貌で、いまや彼の存在は“ロックそのもの”と言ってしまっていいほどに高められている。
彼がその名を広く知られるようになるのは、ジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンスを率いてリリースしたデビューアルバム『Are You Experienced?』の成功と、同年アメリカで開催されたモンタレー・ポップ・フェスティバルへの参加を経てからだが、本作ではそれ以前のジミー、つまり、ジミー・ジェイムスの名でくすぶっていた青年が、キース・リチャーズの恋人=リンダ・キースに“発見”されて渡英、瞬く間にスターダムにのし上がっていくまでの過程を描いている。
キース・リチャーズの恋人である以前に、大の黒人音楽ファンだったというリンダが、ジミー青年をニューヨークのチータ・クラブというライヴハウスで偶然見かけ、ジミ・ヘンドリックスとしてステップアップするきっかけを作った事実は、これまであまり知られていなかった。監督・脚本を手がけたジョン・リドリーは、ジミの「Something My Love to Linda」という曲で歌われる“Linda”が誰なのかに興味を持ち、5年をかけてリサーチしたのだという。
本作は、そんな知られざる事実を軸としている点と、ジミの人生をすべて描いているわけではないという点で、普通の伝記映画とは一線を画している。これは「ひとりの人間の一生を2時間に詰め込むことなんてできない」という監督の意向によるものだが、断片を丁寧に描き込むことによって、かえってそこからジミの波乱に満ちた一生が透けて見えてくる。大ブレイク直前の勢いに乗るジミを描きながらも、すでに不穏な空気がそこはかとなく漂っているのだ。(後編へ続く…)(文:伊藤隆剛/ライター)
伊藤 隆剛(いとう りゅうごう)
ライター時々エディター。出版社、広告制作会社を経て、2013年よりフリー。ボブ・ディランの饒舌さ、モータウンの品質安定ぶり、ジョージ・ハリスンの趣味性、モーズ・アリソンの脱力加減、細野晴臣の来る者を拒まない寛容さ、大瀧詠一の大きな史観、ハーマンズ・ハーミッツの脳天気さ、アズテック・カメラの青さ、渋谷系の節操のなさ、スチャダラパーの“それってどうなの?”的視点を糧に、音楽/映画/オーディオビジュアル/ライフスタイル/書籍にまつわる記事を日々専門誌やウェブサイトに寄稿している。1973年生まれ。名古屋在住。
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