ヴェネチア国際映画祭<歴代受賞作>で見るべき映画は? ライターおすすめの5作品を紹介
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第79回ヴェネチア国際映画祭が9月10日(現地時間)に閉幕。最高賞である金獅子賞は『All the Beauty and the Bloodshed』(ローラ・ポイトラス監督)が受賞し、3年連続で女性監督作品が選ばれたことでも大きな話題となった。今回は、映画ライターの冨永由紀が、過去のヴェネチア国際映画祭の受賞作品の中から、おすすめの5作品をピックアップしてご紹介!
・第79回ヴェネチア映画祭、鈴木清順監督作が最優秀復元賞。金獅子賞は鎮痛剤薬害テーマのドキュメンタリー
カンヌ国際映画祭、ベルリン国際映画祭と共に、世界三大映画祭の1つであるヴェネチア国際映画祭。アーティスティックな作品を多く選出してきた映画祭ですが、近年はハリウッドの大作も上映されるようになりました。さらに、実質カンヌ国際映画祭から「締め出し」を食らっているNetflix作品も、ヴェネチア国際映画祭との関係は良好で、多くの作品が出品されています。また、女性監督が数多く金獅子賞を受賞していることも特色の1つです。日本映画との相性も良く、年々一般的な注目度が上がっている映画祭だといえます。長い歴史のある映画祭なので、象徴的な名作は数多くありますが、今回は各賞の受賞作の中から、個人的におすすめの作品を選ばせていただきました。
ヴェネチア国際映画祭受賞作おすすめ5選
【金獅子賞受賞】1人の少女の死が出会った人々により綴られる『冬の旅』(85年)
【銀獅子賞受賞】黒沢清監督作、共同脚本に濱口竜介も参加した『スパイの妻』(20年)
【男優賞受賞】三船敏郎の魅力と作品の相性がマッチした『用心棒』(61年)
【女優賞受賞】5歳にして獲得! 受賞後は物議も…『ポネット』(96年)
【脚本賞受賞】マギー・ギレンホールが母性に対するタブーに切り込む『ロスト・ドーター』(21年)
【金獅子賞受賞】1人の少女の死が出会った人々により綴られる『冬の旅』(85年)
[作品紹介]南フランスの小さな農村の畑の片隅で、1人の少女が冷たく息絶えていた。所持金もなく、みすぼらしい身なりをした彼女、モナの素性を、彼女の死の数週間前までに出会った人々の証言で綴っていく。アニエス・ヴァルダが監督を、サンドリーヌ・ボネールが主演を務め、第42回ヴェネチア国際映画祭で金獅子賞を受賞した。1985年の作品で、日本でも1991年に劇場公開されたが、今年の11月5日より、2014年にアニエス・ヴァルダと撮影監督を務めたパトリック・ブロシェによる監修で2K修復されたDCP素材でリバイバル公開される。
私は80年代後半にフランスに住んでいたこともあり、現地の名画座で見て衝撃を受けた作品です。ヒッチハイクをしながら自由気ままに旅をする18歳のモナの、亡くなるまでの数週間を、出会った人々の証言によりドキュメンタリー風に描いています。面白いのは、男女でモナに対する印象が全く違うのです。
寝る場所や食事を提供してもらっても恩を返さずに消えてしまうモナ。本作に出てくる男性はそんなモナについて、「顔は可愛いんだけど、汚くて臭くて性格は最悪」や、「親切にしてやったのに俺を馬鹿にして」という印象を持ちます。しかし、女性はモナの自由さを羨ましがるのです。「自由である」ということはどういうことなのか、考えさせられる作品です。
『冬の旅』は、2022年11月5日より全国順次公開。
【銀獅子賞受賞】黒沢清監督作、共同脚本に濱口竜介も参加した『スパイの妻』(20年)
[作品紹介]太平洋戦争開戦前夜の時代、神戸で貿易会社を営む夫と満ち足りた日々を送っていたヒロイン(蒼井優)が、恐るべき国家機密を知った夫(高橋一生)と時代の嵐に巻き込まれていく愛とサスペンスの物語。黒沢清監督は本作で、第77回ヴェネチア国際映画祭銀獅子賞(最優秀監督賞)を受賞した。
「夫がスパイかもしれない」という疑いを持った妻が、夫を信じてついていくことを決意するのですが、それは夫への愛なのか、それとも「この機密を世に広めなければいけない」という使命感なのか…両方がないまぜになって、次第に異様な強さを持った女性になっていくんですね。『スパイの妻』というタイトルですが、夫に従順に見える主人公の芯に強い意志がある。妻主体の映画だと思います。
1940年代の街並みの再現や現存の洋館を使うなど、豪華なセットも見どころです。共同脚本には『ドライブ・マイ・カー』の濱口竜介監督が参加しており、『ドライブ・マイ・カー』前夜という見方でも楽しめる作品です。
【男優賞受賞】三船敏郎の魅力と作品の相性がマッチした『用心棒』(61年)
[作品紹介]三船敏郎主演、黒澤明監督による時代劇映画。桑畑三十郎を名乗る浪人が、宿場町で対立するヤクザ同士を衝突させて壊滅させるという物語で、刀の斬殺音や残酷な描写を取り入れるなど従来の時代劇映画の形式を覆し後の作品に大きな影響を与えた。三船は本作品で第22回ヴェネチア国際映画祭の男優賞を受賞。
『用心棒』は黒澤作品の中でも1、2を争うほど好きな作品です。黒澤作品はメッセージ性を込めたものが多いですが、この作品は完全な娯楽作ですね。本作はアメリカの作家であるダシール・ハメットのハードボイルド小説「血の収穫」を日本の江戸時代の宿場町に舞台を置き換えた物語で、当時の欧米の人にとっても理解しやすい作品だったのではないかと思います。
本作の一番の魅力はなんと言っても三船敏郎です。本作のカラッとした雰囲気も三船によく合っています。監督と俳優の相性がマッチしたときに、これだけのものが現れるんだなと…そういう幸せな瞬間をたくさん見られる作品です。
【女優賞受賞】5歳にして獲得! 受賞後は物議も…『ポネット』(96年)
[作品紹介]4歳にして母親を失った幼女ポネットが「死」という概念を理解し、母の死を乗り越えていくまでの軌跡を描くヒューマンドラマ。主演のヴィクトワール・ティヴィソルは史上最年少の5歳という幼さで、1996年のヴェネチア国際映画祭で女優賞を受賞した。
本作を撮った当時のヴィクトワールの年齢は4歳。「4歳の子が“役”というものを分かって演じているのか」という声もあり、主演女優賞の受賞は物議を醸したようです。しかし映画を見れば分かる通り、彼女はちゃんと“ポネット”という人物になりきり、死を理解しようとする少女を演じています。
ヴィクトワールは、当時セリフの意味はよくわかっていなかったようです。まだ字も読めないので、カメラに映らないところでプロンプターがセリフを教えていました。ヴィクトワールは、プロンプターの言うセリフをオウム返しに真似ていたそうです。
さらに、監督もヴィクトワールを怖がらせないように、語りかけながら演出をしていました。そのため、実際に撮った映像は、プロンプターの声や監督の声がたくさん入っているのですが、それをポストプロダクション(撮影完了後の編集など)で削除して、あたかもヴィクトワールの中から自然にセリフが出てきたかのように見せています。この作品はポストプロダクションの賜物…とも言えますね。それが自問自答しているように見えるし、いじらしさに胸を打たれます。
【脚本賞受賞】マギー・ギレンホールが母性に対するタブーに切り込む『ロスト・ドーター』(21年)
[作品紹介]女優マギー・ギレンホールが長編監督デビューを果たしたヒューマンドラマ。エレナ・フェッランテの小説を基にギレンホール監督が自ら脚本を手がけ、第78回ヴェネチア国際映画祭で脚本賞を受賞した。
オリヴィア・コールマン演じる主人公が、バカンスでギリシャのビーチを訪れ、そこに来ていた子連れの女性の姿を見て昔の自分を思い出します。研究者である彼女は20代の頃、子育てと研究に非常に追われていました。家で仕事をしていると子どもが構って欲しくて邪魔をする…という様子はすごくリアルで、共感できる方も多いのではないでしょうか。
本作は母親であることよりも自分でいることを選択した女性の話なのですが、彼女が自分の生き方をどう見つめるか…というのがこの映画の肝です。これで良かったという思いもあれば、後悔もある。私は子どもがいませんが、一度母親になってしまったら、もう「ただの女性」だけには戻れないのだろうかと考えさせられます。監督・脚本は女優のマギー・ギレンホールで、見事に脚本賞を受賞。その後、第94回アカデミー賞でも脚色賞ほか3部門にノミネートされました。
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