『あっちゃん』
映画『あっちゃん』は、日本のパンクバンド、ニューロティカのフロントマンである“あっちゃん”=イノウエアツシに密着したドキュメンタリー。「お菓子屋さんに生まれた男の、どこにもない生き方。」というキャッチコピーからも分かるように、普段のアツシは八王子の実家で母親と一緒に菓子店「ふじや」を営む、50歳の独身男。ライヴやイベントのある日だけピエロのメイクと衣装でステージに立つという二重生活を長く続けている。
本作は、そんなアツシの“どこにもない生き方”を、本人の日常と友人たちのコメントを通じて浮き彫りにしたもので、監督はパンク系のMVやライヴ作品を数多く手がけているナリオが担当。とにかく登場する人すべてから“あっちゃん愛”が滲み出ていて、ニューロティカやアツシのことを知らない人が見ても心がほっこりするようなドキュメンタリーに仕上がっている。
昨年、結成30周年を迎えたニューロティカは、1980年代末に火がついたバンドブームの波に乗って登場したバンド。インディーズとしては異例の大ホールでのワンマンライヴを成功させた後、1990年に日本コロムビアからメジャーデビュー。バンドブームの終焉や、相次ぐメンバーの脱退といった節目を乗り越えながら、現在も自主レーベルでコンスタントにアルバムを発表している。オリジナルメンバーは、いまやアツシひとりだけだ。
ライヴ本数はトータル1700本を越え、新宿ロフトでの出演回数は断トツの歴代1位だという。本作にもコメントを寄せている氣志團の綾小路翔や宮藤官九郎、まちゃまちゃなど、アツシとバンドを慕うフォロワーは各方面で多く、その存在はジャパニーズ・パンクシーンにおいて特別なものになっている。
そんなニューロティカの影響力や根強い人気は、本作『あっちゃん』の制作過程にもよく表れている。制作資金のすべてをクラウドファンディングサイト「CAMPFIRE(キャンプファイヤー)」で募ったところ、当初の目標額375万円を大きく上回る940万円あまりの募金が集まったという。これは日本のクラウドファンティング史上、自主映画の資金調達額としては最高額であり、2014年度の同サイトの総合記録でも第2位とされている。(後編へ続く…)(文:伊藤隆剛/ライター)
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