映画『赤浜ロックンロール』は、東日本大震災で大きな被害を受けた岩手県大槌町赤浜地区の住民たちを描いたドキュメンタリー。住民の1割が津波の犠牲となったこの地区に持ち上がった、高さ14.5mの防潮堤を建設するプランに「NO!」を突きつけた彼らのそれぞれの思いに迫る。
・[動画]東日本大震災にも負けずに震災後1週間で漁を再開した漁師たちのドキュメンタリー『赤浜ロックンロール』予告編
古くから漁港として栄えた大槌町は、人形劇『ひょっこりひょうたん島』のモデルになった蓬莱島があることでも知られている。この地を襲った津波は最大22mもの高さに達しており、本気でこの規模の津波から町を防ごうと思うと、高さ25.5mの防潮堤が必要になるという。
そこへきて14.5mなどという中途半端な高さの防潮堤を作る意味はあるのか? 人間の作ったものは必ず壊れるし、第一そんな防潮堤を作ったら海が見えなくなるじゃないか。そんなことにお金をかけるなら、このエリアの民家を高台に移すことを考えた方がいい。彼らの意見は、どう考えても的確だ。しかし国は、そんな彼らの意見を汲まない代案をさらに提案してくる……。
その内容からも分かるように、本作は音楽としての“ロックンロール”を主題にしたドキュメンタリーではない。ロックを愛する漁師の若きリーダー格、阿部力(つとむ)さんをはじめとする町民の反骨精神をして“ロックンロール”と呼んでいるのだ。体制側に対して疑問を抱き、自らの意見を貫き通す。そんなロック的な姿勢は、どんな生活をしている人の背中からも滲み出るものだということを、本作は伝えてくれる。
阿部さんは震災後、そのロック好きが高じて「おおつち ありがとうロックフェスティバル」というイベントを主催している。震災で全国各地からもらった支援への感謝の気持ちを発信する意図で行なわれているもので、その模様は本作の中でも少しだけ触れられている。規模は小さいながらも、昨年はSTREET BEATSや横道坊主といったベテラン・パンクバンドらが登場し、この小さな漁師町を大いに沸かせたようだ。なお、STREET BEATSは本作のエンディングテーマも提供しており、赤浜の人々のロック・スピリットを代弁している。
“アフター3.11”を扱った作品だが、自分たちが間違いだと思ったことに素直にNOと言える彼らの生き方には、その枠を超える痛快さがある。そういう意味で、形骸化してしまったロックンロールよりもずっと強力なパンチ力を持つドキュメンタリーだと感じた。(文:伊藤隆剛/ライター)
『赤浜ロックンロール』は5月2日より公開中。
伊藤 隆剛(いとう りゅうごう)
ライター時々エディター。出版社、広告制作会社を経て、2013年よりフリー。ボブ・ディランの饒舌さ、モータウンの品質安定ぶり、ジョージ・ハリスンの趣味性、モーズ・アリソンの脱力加減、細野晴臣の来る者を拒まない寛容さ、大瀧詠一の大きな史観、ハーマンズ・ハーミッツの脳天気さ、アズテック・カメラの青さ、渋谷系の節操のなさ、スチャダラパーの“それってどうなの?”的視点を糧に、音楽/映画/オーディオビジュアル/ライフスタイル/書籍にまつわる記事を日々専門誌やウェブサイトに寄稿している。1973年生まれ。名古屋在住。
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