(…前編より続く)ミュージシャン/シンガー・ソングライターとしての福山雅治は「HELLO」や「桜坂」といったミリオン・ヒットを世に送り出しているが、積極的にその音楽性を評価するような声はほとんど聞かない。それはおそらく、福山本人の音楽的ルーツや嗜好が、彼の作った音楽からほとんど感じられないからだ。
・役者&ミュージシャンの最高峰!? 福山雅治の音楽について考える/前編
たとえば佐野史郎が自身のバンド=タイムスリップやsanchを率いて、はっぴいえんどや遠藤賢司ら先達の音楽を咀嚼して非コマーシャル的でマニアックな音楽活動を展開しているのとは違い、福山の音楽は良くも悪くも彼のイメージそのまま。耳ざわりの良い、高性能なポップ・ソングではあるものの、そこに福山本人のシンガー・ソングライター的な呟きを聴き取ることはできない。
先日リリースされたカヴァー・アルバム「魂リク」も、基本的にはニッポン放送「福山雅治のオールナイトニッポン」でリスナーから寄せられたリクエストに応える形で福山が弾き語ったものだから、自身のルーツを掘り下げたものではない。シンガー・ソングライターの先輩として敬愛するSIONの「SORRY BABY」や「ノスタルジア」をカヴァーしたり、連名でシングル「たまには自分を褒めてやろう」をリリースしたりと、時折ルーツを垣間見せることもあるのだが、彼のミドル・オブ・ザ・ロードそのものの活動から見れば、限りなく余技に近い仕事と見なされるのだろう。それについて言及するメディアは多くない。
もちろん、音楽的ルーツが見えにくいから音楽として良くない、というわけではない。自身のイメージから逸れることなく、その声がもっとも美味しく聴こえるメロディを紡ぎ出すというプロデューサー的な才覚の確かさこそ、この人のミュージシャンとしての資質なのだろう。先ほど触れた“SIONと福山雅治”名義のシングルや、柴咲コウとのユニット“KOH+”での活動を見れば、プロデューサー/アレンジャーとしての彼の手堅い仕事ぶりがよくわかる。
映画/ドラマでも音楽でも、ファンの望む“福山雅治像”を忠実に演じている観のある福山雅治。そのプロ意識はここ数年でさらに研ぎ澄まされているように感じるが、もうちょっと隙のある等身大の福山雅治も見てみたい&聴いてみたいと思う人は、ファンならずとも多いのではないだろうか。(文:伊藤隆剛/ライター)
伊藤 隆剛(いとう りゅうごう)
ライター時々エディター。出版社、広告制作会社を経て、2013年よりフリー。ボブ・ディランの饒舌さ、モータウンの品質安定ぶり、ジョージ・ハリスンの趣味性、モーズ・アリソンの脱力加減、細野晴臣の来る者を拒まない寛容さ、大瀧詠一の大きな史観、ハーマンズ・ハーミッツの脳天気さ、アズテック・カメラの青さ、渋谷系の節操のなさ、スチャダラパーの“それってどうなの?”的視点を糧に、音楽/映画/オーディオビジュアル/ライフスタイル/書籍にまつわる記事を日々専門誌やウェブサイトに寄稿している。1973年生まれ。名古屋在住。
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