(…前編より続く)
スライ・ストーンおよびスライ&ザ・ファミリー・ストーンの全盛期が1960年代後期から70年代初頭にかけてであることは、誰の目にも明らかだ。アルバムで言えば1968年の『Dance to the Music』から71年の『There’s a Riot Goin’ on(暴動)』もしくは73年の『Fresh』あたりまで。ジョージ・クリントン率いるPファンク勢やプリンス、レッド・ホット・チリ・ペッパーズ、アレステッド・ディヴェロップメントらはこの時期のスライの“後継者”と言っていい人たちだし、日本でも例えばスガシカオの音楽には、そこかしこにスライからの影響を聴き取ることができる。小沢健二の94年のアルバム『LIFE』のタイトル・ロゴがスライ&ザ・ファミリー・ストーンの同名アルバムとまんま同じ、なんてことが話題になったりもした。
・【映画を聴く】生ける伝説の真実に迫る衝撃のドキュメンタリー『スライ・ストーン』/前編
同じ“ファンクの始祖”でも、ジェームス・ブラウンのようなグルーヴ一発の快楽性とは異なり、スライのそれは各パーツを緻密に重ねることで作り上げられている。その作風自体は人気が翳りを見せた70年代中期以降の数枚の作品でも大きくは変わらないが、全盛期のような求心力が楽曲に宿っていないのは確かだ。80年代にもたびたび「今度こそ本当に復活するらしい」という噂が持ち上がり、実際にシングルやアルバムもリリースされているものの、ヒットには至っていない。
大きな転機になったのは、2006年のトリビュート・アルバム『Different Strokes by Different Folks』だ。スライの音楽をスティーヴン・タイラー(エアロスミス)らさまざまなアーティストが再構築したこのアルバムがグラミー賞にノミネートされたことで、スライ本人が授賞式会場に金髪&モヒカンという姿で登場し、93年のロックの殿堂入りセレモニー以来の公の場ということで話題になった。本作で取材クルーがスライ本人との接触に成功したのもちょうどこの時期で、その翌年からファミリー・ストーンと共に演奏活動を再開した姿なども収められている。
ここで監督のインタビューに応じるスライの姿は、想像したよりもずっと元気そうだ。長年の不摂生によって、60代半ば(撮影当時)という実年齢よりも老けて見えるものの、「自身の最高傑作は?」の問いに「常に次の作品が最高傑作だ」と答え、MacBookを使って意欲的に音楽制作を続けるその背中には、確かな野心が感じられる。なお、スライは2008年に文字通り奇跡の初来日公演を果たし、2010年にも再来日。2011年には約30年ぶりのオリジナル・アルバム『I’m Back! Family & Friends』もリリースしている。
たとえばピンク・フロイドの創設メンバーであるシド・バレットや、青春小説の金字塔『ライ麦畑でつかまえて(キャッチャー・イン・ザ・ライ)』の作者であるJ.D.サリンジャーは、各々の理由でキャリア半ばにして隠遁。亡くなるまで二度と公の場に姿を現すことがなかった。そのいっぽうで、スライと同じようにドラッグ癖などが祟って長く世捨て人のような生活を強いられたビーチ・ボーイズのブライアン・ウィルソンは、多くの人のバックアップを受けながら見事に復活。現在のその活動は、失われた数十年のブランクを取り戻すかのように精力的なものになっている。
本作を見る限り、スライの“カムバック”がブライアン・ウィルソンと同じような質を持ち得るかどうかは今のところ計り知れない。先述のアルバムも、正直リハビリの域を抜け出せていない出来と言うしかない。しかし、元マネージャーを相手に5年ほど続いていた契約金未払いの裁判で、スライは今年1月に500万ドル(約6億円)を手にすることになった。本編の最後に急遽追加されたこのエピソードが、一時はホームレス状態だったという彼の生活を一転させるものであることは間違いないだろう。それが彼の本当の意味でのカムバックにつながるものであることを、今はファンとして願うばかりだ。(文:伊藤隆剛/ライター)
伊藤 隆剛(いとう りゅうごう)
ライター時々エディター。出版社、広告制作会社を経て、2013年よりフリー。ボブ・ディランの饒舌さ、モータウンの品質安定ぶり、ジョージ・ハリスンの趣味性、モーズ・アリソンの脱力加減、細野晴臣の来る者を拒まない寛容さ、大瀧詠一の大きな史観、ハーマンズ・ハーミッツの脳天気さ、アズテック・カメラの青さ、渋谷系の節操のなさ、スチャダラパーの“それってどうなの?”的視点を糧に、音楽/映画/オーディオビジュアル/ライフスタイル/書籍にまつわる記事を日々専門誌やウェブサイトに寄稿している。1973年生まれ。名古屋在住。
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