(…前編より続く)本作『ジェームス・ブラウン最高の魂(ソウル)を持つ男』では、主要な演奏シーンの音はジェームス・ブラウン(JB)本人のヴォーカルとバックバンドのJB’sによるプレイが使用されている。JBに扮するチャドウィック・ボーズマンほか、出演者はすべて実際のライヴさながらに本当に演奏をしているそうで、それが本人たちの演奏との違和感のないシンクロに結びついている。
・「ファンクの帝王」の過激で過剰な人生を凝縮!『ジェームス・ブラウン〜最高の魂を持つ男〜』/前編
本作の音楽的なハイライトと言うべき1971年のパリ公演(『ライヴ・イン・パリ ’71』としてCD化もされている)での「セックス・マシーン」や「スーパー・バッド」、「ソウル・パワー」も、当時マルチトラック・テープに録音された演奏を流用したものだという。この伝説的なライヴは、動画サイトなどでも見ることができるので、映画と実際の映像を見比べるのも面白いだろう。
それにしても、演奏シーンだけでなく、話し方から立ち居振る舞いまで、本作でのチャドウィック・ボーズマンのJBへのなりきりぶりは凄まじい。マイケル・ジャクソンにも多大な影響を与えたダンス・ステップ、ステージでの絶対君主ぶりなど、驚くばかりのソックリ具合だ。もちろん年代ごとに用意されたカツラや特殊メイクによる首や頬のたるみといった演出も効いているのだが、「もの真似ではなく、解釈して演じたかった」と言うボーズマンの言葉通り、JBのアイデンティティを理解し尽くしたからこその深みが、その演技から滲み出ている。ファンクの極意を解さないバンドメンバーたちに「お前たちがプレイしているのはギターでもサックスでもなく、すべてドラムだと思え」と諭すシーンなど、JB本人が憑依したようなイカツさだ。
日本では「セックス・マシーン」でのフレーズをもじった井筒和幸監督の『ゲロッパ! GET UP!』や、本人が登場したカップラーメンのCM「ミソンパ!」などの影響でソウル・アイコンとして曲解されたまま定着している観のあるJBだが、本作が“ファンクの帝王”としての真骨頂を知るための良いきっかけになることは間違いない。ここから超ファンキーな編集盤『イン・ザ・ジャングル・グルーヴ』や名作ライヴ・アルバム『ライヴ・アット・ジ・アポロ』へと遡り、その過激かつ過剰な足跡を振り返ってみてはいかがだろうか。(文:伊藤隆剛/ライター)
伊藤 隆剛(いとう りゅうごう)
ライター時々エディター。出版社、広告制作会社を経て、2013年よりフリー。ボブ・ディランの饒舌さ、モータウンの品質安定ぶり、ジョージ・ハリスンの趣味性、モーズ・アリソンの脱力加減、細野晴臣の来る者を拒まない寛容さ、大瀧詠一の大きな史観、ハーマンズ・ハーミッツの脳天気さ、アズテック・カメラの青さ、渋谷系の節操のなさ、スチャダラパーの“それってどうなの?”的視点を糧に、音楽/映画/オーディオビジュアル/ライフスタイル/書籍にまつわる記事を日々専門誌やウェブサイトに寄稿している。1973年生まれ。名古屋在住。
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